振り返ればあの時ヤれたかも

落花生

第1話タイムリープ1回目―1

 屑が、どうやって生き延びているか疑問に思ったことはないだろうか。

 自分では何にも出来なくて、誰かに寄生することでしか生きられない屑を人生で一人ぐらいは見たことがあるだろう。見たことがない人生ならば、それは幸いだ。その人生がずっと続くのを俺は祈っている。だが、遭遇した人間ならば分かるだろう。


 人間の屑は、なぜかしぶとく生き残る。


 極普通の善良な人間が息も絶え絶えなのに、屑だけがのんびりと生き残っている。

 俺は、その秘密を知っている。俺の父親が、屑だった。気に入らないことがあれば、俺や母さんを殴るような屑。自分の失敗は全部他人のせいにして、自分は被害者だと常に叫んでいた最低な父親。

 そんな親父がまっとうに生きられるはずもなく、人生のなかで何度も殺されそうになった。親父のせいで損をした人、親戚、親父の自称友人。そういう人々に親父は殺されかけたのに、親父は何度だって生き延びた。

 親父は、運が良かったのか?

 ある意味ではそうだろう。

 親父は、とある能力を持っていた。

 タイムリープって、ヤツだ。時間をちょっと巻きなおしてやり直しが出来る能力。この能力で屑の親父は、人生をちょっとずつやり直していた。

 屑の親父がどうしてそんな能力を持っていたかは分からないけど、親父の能力は息子の俺にもちょっとばかり遺伝していた。

 俺は、他人のタイムリープに巻き込まれない。

 それどころか、俺はタイムリープの能力を消し去ってしまうこともできた。

 親父がタイムリープを繰返すなかで記憶を保持しつづけた俺は、親父の妨害を突破して無事に母親と親父を無事離婚させることができた。

 そして、その能力も消し去ることができたのだ。

 数年後、母親がさらなる屑と出会ってくっついたけど――そっちの親父のほうはタイムリープの能力を持っていなかった。

 その屑の父親と俺たちが家族になることはなかったけど、父親が連れてきた妹は俺達の家族になった。俺と母親は、その妹を連れて屑からまた逃げた。

 ただ屑から逃げる人生だったけど、俺は気がついたら高校生になっていた。親父のタイムリープに巻き込まれながら成長したせいで、なんだか精神のほうはずっと前に大人になってしまったような気もするけれど。

 ともかく、タイムリープなんて能力を持っていたのは屑の親父だけ。俺は、この先ずっと他人のタイムリープに巻き込まれずに生きていくんだと思った。

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