14.絶対に助ける! -ユウside-

 スニーカーを履いて立ち上がった瞬間、目の前に二人の少年が現れた。

 ゲートじゃない。これは……瞬間移動!?


『急げ! すぐ跳ぶぞ!』

『了解!』

「待て!」


 駆け寄ろうとした瞬間、衝撃波を食らって家の中に跳ね飛ばされた。二人の少年は朝日の両脇から抱え込むように互いの腕を組む。

 一瞬、俺の方に振り返った朝日と目が合ったが――そのまま三人は忽然と姿を消した。


「朝日!」


 慌てて玄関から外に出ると、俺と同じく跳ね飛ばされた夜斗が、何とか起き上がったところだった。


「……ユウ!」


 俺の姿に気づくと、駆け寄ってくる。


「朝日……朝日が、消えた!」


 驚いているのは、本当のようだ。

 でも……それは、何も知らないミュービュリの人間だからか?

 それとも、、という驚きか?


 朝日は妙に夜斗を庇っていたけど、俺は夜斗を少し疑っていた。

 しかし少なくとも、今の二人の少年とは無関係らしい。


「急に何か、変なのが現れて……朝日を連れていっちまった。ユウ、どうする!」


 夜斗の質問には答えず、俺はどうやって朝日を追いかけるかを考えた。

 片方の少年には見覚えがある。最初に襲ってきたディゲの奴だ。

 これまでの戦いで、俺が瞬間移動できないのを見抜いていたってことだ……。

 朝日を囲むようにして俺の攻撃を封じ、一瞬で跳んだ。

 瞬間移動ができない俺が追いつくためには……どうしたらいい?


「なぁ、ユウ。朝日は携帯を持ってたよな。GPSで場所を探せるんじゃないか?」

「携帯……」


 夜斗の言葉でハッとする。


 そうだ。携帯……一昨日、電話で会話した。俺の携帯と一度つながっている。

 それと……アレクサンドライト。

 この二つがあれば、ゲートを越えて朝日のもとへ行けるかもしれない。

 瞬間移動をしたということは、ゲートは越えていない。テスラに行ったのではなく、ミュービュリのどこかにいるはず。

 多分、俺の攻撃を躱すためにいったん跳んで……改めて、テスラに連れて行く気だ。

 そして、俺が来るのを待ち構えているに違いない。奴らの目的は、俺たち二人の筈だ。


 でも、そもそも朝日はゲートを越えられるのか?

 最初に襲ってきたディゲの連中は、『殺さなければ何をしてもいいからキエラに連れてこい』と命令されていたようだが。


 ……いや、考えている暇はない。とにかくやるしかないんだ。


「おい、ユウ!」


 夜斗が俺の肩を掴んで揺さぶってくる。背が高いのもあってかなりの威圧感だ。

 朝日は何かおかしなことを言うし、本当に気に入らない。

 だが、夜斗の件はひとまず後回しだ。


「夜斗、僕は僕の方法で朝日を探す。もし本当に朝日を心配してくれるなら、お前はお前の方法で探してくれ。そして、場所を見つけたら迎えに行ってやってくれ」


 シロでもクロでもどうにか通じるように夜斗に言うと、俺は家の中に戻った。

 慌てて朝日にもらった携帯を探してポケットに入れる。

 ゲートを開こうとして……ふと、窓の外を見た。

 夜斗の姿は、もうどこにもなかった。


 夜斗が今襲ってきた連中とは無関係だということはわかるが、だからと言って安心はできない。

 朝日を狙っている敵が一つとは限らないからだ。

 だとすると……姿を消して俺の様子を窺っている可能性はある。

 もし隠蔽カバーの使い手であれば、それぐらいはするだろう。


 ゲートを越えるところを夜斗に見せる訳にはいかないので、トイレに入った。

 懐の指輪を確認する。

 大きく息を吸い込み集中すると――俺はゲートを開いた。

 まずはテスラのどこか……朝日か俺と関係の深い場所に出るはずだ。

 

 

 曖昧な空間を飛ぶように走ると、すぐに裂け目が見えた。

 様子を窺いながら外に出る。


 見渡すと、湿っぽい薄暗い部屋だった。

 窓は上の方に小さいものが取り付けられているだけ。微かな光がそこから漏れ出している。

 壁も床もすべて石造りだ。しかし長い間使われていないらしく、隅には埃が溜まっている。

 家具などは一切なく、ガラスの棺のようなものがポツンとあるだけだった。蓋は開いており、中は空っぽだ。


 このジメジメした牢屋のような感じ……フィラでもエルトラでもない。多分、キエラの要塞の中だ。

 何故キエラに着いたのかはわからないが、まぁいい。

 扉が1か所だけある。ここから出れば何か探れるかもしれないが、残念ながら今はそんな時間はない。

 何か今後の戦いの役に立つ情報があれば、とも思ったけど。


 俺はその場所を探索するのは諦め、すぐにゲートを開いた。


「――そこにいるのは誰だ!」


 その1つだけあった扉が開き、髭だらけの初老の男が入ってきた。

 威圧感のある声、欲望でぎらついた目玉――瞬間的に、カンゼルだと思った。


「……お前は……!」


 男が何か言いかけたが、俺は無視してすぐに空間の裂け目から体を滑り込ませ、ゲートを閉じた。

 いつかは戦わなければならない相手だが、今はまず朝日の救出が先だ。



 朝日……怪我してないか? 大丈夫か?

 指輪よ、頼む。俺を朝日のもとへ導いてくれ!

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