カラスの行く末

@mikii

カラスの行く末

うわっ見て、またカラスがゴミ漁ってる!

いやねぇ、あんなに散らかっしちゃって

ちょっとあれ、浅田さんとこのゴミじゃない?

本当だ!またペットボトル混ざってる

ほんと、ゴミの分別くらいちゃんとやって欲しいもんよね

ホント、ホント

今度、老人会の会合で会ったら注意してもらいましょ

そういえば、田中さんとこの旦那さん亡くなられたんですって?

そうらしいわ。体調悪くて入院したらそのままポックリ……


カーカー


しっし!どこかへお行き!

まーた、こんなに荒らしちゃって!

今度、生ゴミに毒でも混ぜてやろうかしら

そういえば、毎日見かけるのにカラスの死骸って見たことないわね

そりゃそうよ。カラスは人間に死ぬとこみせたくないんだから

あらまぁ!じゃぁ歳をとったカラスはどこで死ぬのかしら

どこかにカラスの安息の地でもあるんじゃない?

死体の山じゃなくて?

まぁ、怖い!

そうそう、怖いと言えば隣の……




八月、連日続いているうだるような暑さに、人々は皆グッタリとしていた。

アスファルトからの照り返しは容赦なく、まるで街ごとオーブンに入れられてるようだ。


電線に止まっていた一羽のカラスのそばに、もう一羽のカラスがやってきた。




「先輩、チワス。遅かったっスね!」

「あー。体調悪い」

「なんすか、いきなり。ヤバイやつスカ?」

「うん、かなりヤバイ。もう死ぬかも」

「マジスカ、先ぱ……ああっ!」

 先輩と呼ばれたカラスはそのまま体を後ろに倒し白目をむいて堕ちていく。

 脚で掴んでいる電線を軸に、体が180度回転する。地上までは5メートル以上ある高さだ。

「うわぁわぁー!センパァーイ!」

 落ちそうになる先輩カラスを必死に受け止めようと大きく羽を広げる後輩カラス。

「なーんてな」

 そのまま体を一回転させた先輩カラスがおどけてみせた。

「脅かさないでください!心臓止まるかと思ったっス」

「イヤァ、ワリ。おめースグだまされて面白いからつい」

「もう!それにしても先輩、運動神経いいッスね!」

「あれ?言ってなかったっけ……俺昔サーカス団にいたって」

「マジスカ!スッゲぇ!カッケー!」

「……いや、ウソだけど」

「もう、なんなんすか!先輩ウソばっかじゃないスカ!この暑いのにやめて下さいよ」

「じゃ、アッチ行ってみる?こっちより涼しいらしいよ」

 先輩カラスは右羽で北の方角を指す。

「そうなんすか?先輩、頭いいッスね!でももう飛ぶ気力ないっス」

「この暑さはヤバイな。ここ来るだけでもう焼き鳥になるかとおもったよ」

「本当っスよ!クンクン……そんな話してたらどこからか香ばしい香りがしてきたッス!先輩、オレ腹減ったッス」

「そうだなケホケホ……ん、煙?燃えてる!オマエ頭本当に燃えてっから!」

「うわぁ、何コレ?自然発火?先輩、消して、消して!」

「ふぅ。間一髪だったな。いやー、この時期この真っ黒ボディは危険だな」

「俺ら光吸収しまくりっスね」

「……つか大丈夫か?頭ザビエルみたいになってるけど」

「ザビエルって誰スカ?うわ、もろ素肌。うわぁこれもうヤバイ。もう俺死ぬっス」

「いやいや、んな簡単に死なないって。オロナイン塗っとけばダイジョーブ……」

「ああ、やばい!先輩、なんかスゲー頭痛い……もう死ぬな、コレ。サヨナラ先輩」

「いや、大丈夫だって……ねぇ、聞いてる?」

「さっき、下で人間が話してたんすけど……俺らの死体みたことないって!なんか死ぬってわかったら俺ら行かなきゃいけない場所があるらしいんすけど……それってどこスカ、先輩?」

「はぁ?」

「もったいぶらないで教えて欲しいッス!」

「いや、知らんし。なんでそもそも人間にそんな気つかわなきゃいけないの?俺らそんなに親しい間柄?」

「そんなのこっちが聞きたいっス。そーいやオレも仲間の死体見たことないっスよ!さてはガチですね」

「それ多分、いわゆる都市伝説ってやつだわ。俺ら普通にその辺の緑多めなとこで死ぬし。そもそも人間なんかどーでもいいし」

「じゃーなんでオレ、仲間の死体見てないんすかね?」

「ああ、それな……。オマエ、あれみてみろ」

先輩カラスは、羽先でいまだ井戸端会議開催中の人間を指した。

「あのバーさん。頭真っ白だろ?」

「ハイ、そすね」

「アレ、前は俺らみたいに真っ黒だったんだぜ」

「マ、マジすか!」

「ああ、マジだ。アッチのまだらのバーさんはちょうど変異中だな」

「うぉ!?マジ変異してる!知らなかったっス」

「そこでだ……。驚くなよ、実は俺たちも変異するんだよ!」

「マ、マジすか!」

「ああ、俺たちもあと何年かしたら真っ白になる」

「!?」

「仲間の死体に気がつかないのも無理はないな。俺たちの変異した姿がアレだ」

先輩カラスは前を横切っていくカモメを目で追う。

「マジすか!先輩やっぱ博学ッス~。あ、アッチがホントの先輩スね!チワース」

後輩カラスは怪訝な目をするカモメに頭を下げた。

「……オメー、やっぱカワイイわ」




ああもう!カーカー五月蠅いったらありゃしない!

ほんとねー

無駄に毎日カーカーカーカー

早く安息の地とやらに行ってくれないかしら……

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