第22話 今度こそ

 傭兵斡旋所のスイングドアを勢いよく押して中に入った。

 右手には打ち合わせ用なのか、間仕切りされたテーブルが並んでいるのが見える。

 人がいても話し声が聞こえない所を見ると、防音の魔法でもかかっているのかもしれない。


 左手には売店のような消耗品のお店。

 並んでいるのは野営道具などだけで、武器や薬関係は専門店で売っているんだろう。


 正面には受付カウンターらしき窓口、左手奥は買い取り場所だろうか?

 それなりの広さが確保してある場所からは血の臭いもしてくる。


「何のようだい?」


 キョロキョロしていると髪をお団子にしたブラウス姿の初老女性が声をかけてきた。

 いや、ここは美人受付嬢がお決まりなんじゃなかろうか。


「今何か失礼なこと考えただろ。」


 エスパーか!


「いや、登録はここでいいのかって思ってただけだ。」


「おう兄ちゃん、そんなガタイで傭兵が出来ると――」


 後から声をかけてきた男の足に自分の足を添えるとそのまま跳ね上げた。

 蹴っちゃうと折れるか砕けるか千切れ飛ぶからね。

 180度ひっくり返ったところで脇腹あたりをつかむと、そのまま床に軽く突き刺す。

 よく見てみるとチェインメイルのような装備のマッチョだったが、今は頭を床に埋めて手足をバタバタと動かしている。


「実力は足りてると思うんだが、登録は出来るのか?」


「……登録料に小銀貨1枚と床の修理代に5枚だね。」


 やっちまったな!

 渋々大銀貨で支払い、手続きを進めることにした。


「それで?何が使えるの?」


 超態度悪いんですけどこの受付婆!

 不満を覚えつつも先に進まないので答えることにする。


「剣に大剣、短剣に弓にハンマーと杖、魔法は多分全属性使える。」


「…あんた噓つくならもう少しまともな噓つきなよ。」


 あきれたようにため息を吐く受付婆。

 俺はにこやかな笑顔のまま右手に炎、左手に氷を出す。


「こっちは試したら建物が無くなるけどどうする?」


「……いいわ、とりあえず言うとおりに記録しとくから、その物騒なのを消してくれないかい?」


 どう見ても偽装し放題な木の板を受け取ると、とりあえず受付を離れ掲示板らしきところで依頼が無いか見てみた。



【急募】[我らが栄光]メンバー募集

 傭兵ランク8 メンバー15人 魔法使い募集


【急募】[筋肉の宴]メンバー募集

 傭兵ランク5 メンバー8人 女の子8人募集


【急募】[ドラゴンの爪]メンバー募集

 傭兵ランク3 メンバー3人 アットホームな傭兵団です。



 戦闘を含む便利屋を傭兵って言うのかと思ってたら、普通の傭兵団のハローワークだった件。

 明らかに出会い厨もいるし、最後とか絶対ブラックだろ。これ。


 俺は受付婆のところに戻ると、傭兵団立ち上げの条件を聞いてみた。


「最低3人、登録料大金貨2枚。」


「また来ます。」


 傭兵登録は失敗だった。

 もっと調べてからにすれば良かったこんちくしょー!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る