日記 その三 と 並行 その三

三月二十二日

今日も日野は来ない。いや、もうこれからずっと来ない。

終業式の今日、日野の転校の連絡があった。

誰も悲しんでいなかった。誰のことかわからないやつもいた。


それが本当に辛かった。

当たり前の反応でしょうがないとわかっていても悔しかった。

その気持ちが着火剤となり今までの思いが爆発してしまった。


今までいつも何かあるたびに日野がいればどんなにいいだろう、と思っていた。癖になっていた。心のどこかではもうくることのないと分かっていたのかもしれない。日野がいることを想像する事で気を紛らわしていた。


これからはお前が転校していない世界のことをここに書こうと思う。






俺が願っていた平行世界パラレルワールドをこの日記に創ろう。






* * *






日野は今の状況と自分のしたことが理解出来ていなかった。


さっきまで借りたギターを握っていた手には、ドラマでしか見たことのない血まみれのバットがある。

さっきまで先輩のライブで熱狂していた葉山は、泣きながらうずくまりガタガタ震えている。

さっきまで教室にいたはずなのに、今は校舎裏の薄暗い体育倉庫にいる。


そして、足元には頭から血が流れて一切動かない三年生がいる。



今日が晴れやかな筈の入学式という事実が理解を遅らせる。



ライブが終わる前に教室から出て葉山と別れた。

その後この不良に絡まれてこの倉庫に連れてこられた。

思い出していく、というか再確認していく。

その後一発もらって金出せって言われて、持ってないと答えた。


遠くからドラムの低い音が聞こえた。徐々に現実に頭が着いて行く。痛みがジリジリと存在を主張しはじめた。


もう一発来ると思った瞬間突然葉山が現れて飛びかかって揉みくちゃになった。

ここらへんから頭が追いつかなくなって最初はただ呆然と見てるだけだったが、葉山が一方的に殴られているのを見て助けなくてはと思った。


手元にバットがあった。


そこから自分が何をしたか思い出したく無かったが、日野はもう既に分かっていた。理解出来ないのではなく、理解したくなかっただけだった。


ようやく顔を上げた葉山を見て日野は、もうここには、この学校には居られない、と確信した。



葉山は逆光でしっかりと見えない日野を見て

首元にホクロがある

ぐちゃぐちゃの頭でそう思ったことはその後なかなか忘れられなかった。



警察に正当防衛が認められても、学校がこの一件を揉み消してくれても、二人の壊れた何かは治るはずがなかった。

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