現代冥府のカンパネルラ

なかやま。

第零場「最後の約束」

始まりは暗闇だった。寂しげな、柱時計の鐘の音が響く。

この大きな仕組みの中で、彼――もしくは、彼女――は、幌舞ほろまいと名乗っていた。


「……いいでしょう。忘れられない思い出、もう一度会いたい人、そのすべての答えが、この銀河の宵闇と鉄道に込められています」


幌舞ほろまいは、すでに姿形を失ったと、会話をしているらしい。


「ほうほう、あぁ……そうですか。そりゃあなた、寂しいんでしょう。えぇ、そういう理由だけで同行者を選ぶ方もおられますよ、大丈夫です、安心してくださいふっふっふっふ」


男女の区別がつかない幌舞ほろまいの中性的な笑い声は、あらゆるしがらみから離れた存在にとって、唯一安堵できるものだ。


「……北のの地の、終わりの名を冠したこのわたくしが、責任をもってあなたがたを天上までお送り致します 」


電車の発車ベルが鳴り響いた。


「どうぞ、よい旅を」


暗闇から、真白い光に包まれていく。

“彼”は記憶を辿り、自らの姿形と“同行者”の顔を思い浮かべた。

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