放課後デート
「ほらほら!こっちですよ!早く行きましょう!」
ゲーセンに来れたのがよほど嬉しいのか、彼女のテンションは凄く高かった。
こいつなら、こういう場所慣れてそうなもんだが。
ここのガチャガチャした五月蝿すぎる音に負けていない。
「…はいはい」
一方の俺は付いていくのに精一杯だった。
なんせここは人が多い。特に、学校帰りのJK。JKと一緒に居るが、俺はどうしても苦手なんだ。
俺がもたもたしていると彼女は痺れを切らしたのか、俺の手を掴んでぐいぐい歩き出した。
これまで異性と交流なんてなかった俺は、こんな形でもドキッとしてしまう。
プリクラの前まで着くと、彼女はテキパキと財布からお金を出して機会に入れた。それから色々設定を済ませて撮影ブースというところに入る。
…照明が多い。明るい。
「ここの枠の中に収まるように二人で入るんです!ほら、屈んでください!」
「あ、あぁ…」
「それで、色んなポーズをするんですよ!恋人っぽいことしたいですね…」
プリクラは初めて撮るからポーズなんて全然とれなかったが、大まかな理由はそうじゃない。距離が近すぎるのだ。
彼女はそんなこと全く気にしていないように腕にくっついてくるが、柔らかいものが押し付けられるたび何故か後ろめたい気持ちになって逃げ出したくなり、結局全部棒立ちだった。
全部撮り終わると、今度は落書きブースというところに移動した。
そこで撮ったプリクラが全部見れたのだが、俺は全部同じポーズの同じ顔だった。
しかも無駄に口紅やら頬の赤いのやらが塗られていて気持ち悪い。
目も実物の3倍くらいあるんじゃないだろうか。
一方彼女は、ポーズも表情も全部違った。ピースしていたりウインクしていたり、指でハートを作っていたり、俺にくっついているのも数枚あった。
彼女は元から可愛いのもあって、プリクラの加工がいい感じになっていた。
「ここでは撮ったプリクラに好きに落書きが出来るんです!色々書いてもいいし、何もしなくても可愛いですよね…シンプルイズベストです!」
「あぁ…にしてもお前ポーズのバリエーション凄いな」
落書きについては分からないし、何でも良かったから彼女にそのまま感想を口にした。
「へへ、あなたは棒立ちですね、でもこれとか凄いカップルっぽくないですか~?」
彼女が指差していたのは、俺の腕にくっついてるものだった。確かにリア充っぽかった。
「わ、暗い…」
俺達がプリクラを撮っている間にいつの間にか時間が経っていたらしい。
ゲーセンを出ると、もう外は真っ暗になっていた。
彼女の家は知らないが、この時間に一人で返すのは危ないのだろうか。
「お前って家どこ?」
「えっと、〇〇町です!でも自転車通学なのでとりあえず学校に戻らないといけなくって…」
最近物騒な事件も多いから場所によっては送って行ったほうが良いかと思ったが、どうやらチャリ通らしい。
「なんだ、それ言ってくれれば俺もチャリ通だからここまでもチャリで来れたのに」
「そうなんですか!えっと、じゃあとりあえず学校まで戻りましょうか」
「おう」
俺が歩きだそうとすると、彼女が俺のかばんを掴んで付いてきた。
暗いのが怖いのか。まぁ別にいっか。
「あの…浅間くんって呼んでも良いですか?」
「え?あぁ、いいよ」
「あ、でもクラスに浅間くん居るんですよね…り、
同じクラスにもう一人浅間が居たのか。まぁ別に構わないが、クラスでそうやって呼ばれると余計な詮索をされて面倒臭そうだ。
「…いいけど、クラスでは呼ばないで欲しい」
「…分かりました!亮輝くんっ」
その後、趣味の話をしながら歩いているといつの間にか学校に着いていた。
彼女の家は俺の帰り道の近くだそうで、学校からも一緒に帰ることになった。
人気もあって可愛い彼女とは対象的に人気どころか影すら無くて平凡な俺とは正反対だが、何故か『読書』という趣味は一緒で、好きな作家も被りがあり、話は盛り上がっていた。
どちらかというと、ハッピーエンド、全員幸せではなくても、メリーバッドエンドが多い作家ばかりだった。
家に帰ると、先に家に着いたらしい彼女からLINEが入っていた。
忘れていたが、プリクラの印刷を待っている間に連絡先を交換したのだ。
内容は、今日のお礼と本についてだった。
ふと、帰り道の会話が頭をよぎる。
彼女は「本は現実とは違うから、現実逃避出来るから好きで、読んでいると自然と主人公になっちゃった気がするんだ」と言っていた。
なぜ、クラスメイトを全く知らない俺ですら知っているくらい人気で外見も人一倍可愛いのに、現実逃避をする必要があるのか。ハッピーエンドに憧れるのか。
まぁ、そんなこと俺には関係ない。
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