第62話 交流会会議
魔法高校全18校、総勢108名の生徒会役員が一堂に会する会議室。
年一度の交流会だけで見られる光景だ。
「皆さん、こんにちは。今年の交流会会議で司会を務めさせていただきます、東京魔法高校生徒会長、光阪恵です。よろしくお願いします」
大勢を前にしても臆さない姿勢。それは蒼真が入学してから見てきた彼女の姿である。
「では、お手元の資料をご覧ください。今年度の4月、我が東京校で魔法使い、および非魔法使いによる襲撃事件がありました。幸いにも学生、教員に被害はありませんでしたが、魔法高校全体で警備体制について考え直すきっかけになったと思います」
蒼真は資料に目を落とした。そこは事件の一部始終が記されていた。
犯人達の行動経路や、事情聴取の会話記録。
全てが公にされているようで、「賢者の石」そして「異例者」の脱走についての情報が省かれていた。
実際、事件当時のニュース報道でもこのことは話されなかったため、「七元素」を中心に裏社会に繋がる情報は秘匿されているようだ。
「1つ、質問よろしいでしょうか?」
声とともに、部屋の奥で手がスッと挙げられた。
「横浜魔法高校の生徒会長、
東京校の関係者。このフレーズで会議室はざわめき出した。
しかし前に立つ恵、そして一彦は表情を一切変えず堂々としたものだった。
「確かに、昔に我が校から中退した者がいたのは事実です。ですが、警察病院での鑑定の結果、精神操作が行われていた形跡がありました。この事件にはまだ見ぬ黒幕がいる可能性があります」
精神操作をされていたという証言は、警察からの声明である。
だが、警察と深く関わっているのは「七元素」の水戸守家である。
実際には洗脳は行われていなかったが、捉えようによれば「賢者の石」は精神操作の一種とすることもできる。
それに加えて、彼らを従えた「異例者」——現在の暁月は、「情報屋」からそそのかされた形で事件を起こしたことは事実である。
よって、この証言は100%正解とは言えないが、間違っているとも言えないものになっていた。
「ですが、あなたほどの魔法使いなら——『七元素』の魔法使いならば、洗脳を解くこともできたのでは? 学生全員に大きな怪我を負わせなかった、あなたなら」
「私を過大評価してくださっているのはありがたいですが、残念ながらそういった魔法には精通していないんです。私にできるのは、皆を守ることくらいですよ。大したことはありません」
さらりと放たれた恵の言葉に、透は苦虫を噛み潰したような表情をみせた。
彼の目論見は、東京校の揚げ足を取って生徒会長である光阪恵の格、同時に「光阪家」の格を貶めることであった。
常光家は光の字を持つ「副元素」の一家であるが、この地位で満足できない強欲さがある。
もしも光阪家の評判が落ち、没落するようなことがあれば、新たな「七元素」が光の「副元素」から選ばれることになり、常光家にもチャンスが巡ってくる。
しかし、隙をつけるほど光阪恵という女は甘くは無かった。
むしろ、透との差を周囲に見せつけるまでの余裕すら持ち得ていた。
「他に意見はないようですので、この件については警察の方に事件の黒幕の捜査を全面委託することとします。加えて、各校の防護システムのマニュアルが新しくなっていますので、先生方も含めて改めて確認しておいてください」
「補足になりますが、この事件に関連する出来事として、非魔法使いによる魔法使いの学生への暴行というものがありました。この件では、学生は魔法を使用していない段階で犯人が捕えられましたが、ほとんどの場合で学生といえど街中で非魔法使いに魔法により傷害を与えると、重大な罪となります。このことを今一度、各校の学生全員に意識付けするよう伝達のほどよろしくお願いします」
恵の言葉に一彦が付け加える形で、4月の事件についての議題は締めくくられた。
「では次の議題……といきたいところなんですが、特別話すこともないんですよね。何か議題にしたい案がある方は挙手をお願いします。無いようでしたら、明日行われる交流戦前夜祭の打ち合わせにしましょうか」
ここ数年の間、日本社会はかなり安定していた。
京都などの、有力な術師が多くいる地域を除き、全国で「七元素」が目を光らせていたこともあって、魔法使いによる大きな事件は無かった。
そのため、大きな革新も起こることがなく、この交流会中の会議も形骸的なものとなってしまっていた。
昨年、一昨年も重要な議題が挙げられることはなく、ただ交流会の打ち合わせをする時間となっていたのが事実である。
だが、今年は魔法教育の中枢である魔法高校の襲撃、特筆すべきは首都の魔法高校という重大な事件が起こった。
もちろん被害を受けた当事者である魔法高校側での意識改革も行われたが、数年ぶりに「七元素」の頭首が顔を合わせるという出来事が人知れず行われていたのは、また別の話である。
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「——ということで、今日の会議はこれで終了とします。明日は9時から交流戦についての打ち合わせを行います。各校生徒会の動きは、前もって配布していますデータを参照していただいていると思いますが、時間的に無理のある点などをシミュレーションして訂正する箇所を見つける予定です。時間に遅れずに来てください。以上です」
会議が終わり、学生が次々と退出していく。
残ったのは、交流会進行担当の蒼真達、東京魔法高校生徒会の5人と立花だけであった。
「お疲れ様です。皆さんのおかげで、有意義な時間になりましたね」
「先生が作ってくださった資料を使って話しただけですよ。それに、私は生徒会長ですから。たまにはかっこいいところ見せたいじゃないですか」
ふふんと、恵は胸を張って得意げな表情を見せる。
普段は一彦に仕事を任せることが妙に目立つ彼女だが、やるときはやる人間なのだ。
「まぁ、私の素晴らしい活躍は今日以外も見れるし、明日もよろしくね。資料の配布とか、手伝って貰うこともまだあるし、智美達と一緒に来る他の学生達のこともあるから」
そう、交流会はまだ初日が終わったばかり。
約2週間に及ぶ長き戦いが、今始まる。
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