魔法高校交流会編
第60話 逢羅成島
西暦3000年9月1日。太平洋に浮かぶ人工島——
陸、海、空、魔の4つの自衛隊のうちの1つ、魔法自衛隊の訓練場として主に使われている島であるが、この日から半月の間は魔法高校交流会の会場として開放される。
魔法高校は国立の教育機関とはいえ、高校の行事に自衛隊の施設を使用するなど、やや優遇しすぎにも思えるが、実は自衛隊側にもメリットはある。
交流会の目的は魔法高校間の連携を深める、互いに魔法能力の向上に努めること。だがそれは、学生や教員の目的である。
外部から支援する国、自衛隊は施設を貸し出すことで学生の防衛大学へのスカウトを行なっているのだ。
優秀な魔法使いを特待生として防衛大へ入学させ、ゆくゆくは国を守る魔法自衛隊の一員とするために。
毎年数人の学生がこの交流会中に防衛大への進学を決めている。
その中でも、今年の交流会では東京魔法高校の会計、赤木一彦は注目を受けている学生の1人だ。
「恵、そろそろ起きろ。もうすぐ島に着くぞ」
「ん……もうそんな時間? やっぱり早いわね」
「まあ、実際のところ数分しか寝てなかったからな」
一彦の声かけで、恵は微睡の世界から覚醒した。
んっ、と声を漏らしながら座席に座ったまま少し伸びをすると、恵は背後の後輩達に顔を向けた。
逢羅成島へ向かう小型飛行機に乗った学生は5人。生徒会役員の数には1人足りない。
「どうした? 結城が乗っていないのが心配か?」
「ち、違うわよ。蒼真君なら、問題無く島で合流できるでしょ」
蒼真を除いた東京魔法高校の生徒会メンバーと顧問の立花を乗せた小型飛行機は、逢羅成島上空で着陸姿勢をとっていた。
この小型飛行機の最高速度はおよそマッハ2。
東京から約1000キロメートル離れた逢羅成島まで30分程度で到着する計算だ。
恵は寝起きの目を窓の外へ向ける。
自衛隊の訓練場として使われるだけあって、かなり広い敷地面積を誇る島と、着陸しようとする数機の小型飛行機が視界に入った。
「あれのどれかに蒼真君も乗っているのかしら」
蒼真は、京都から直接この会場へ向かうと夏休み前に直接恵達に伝えていた。
彼が今乗っているのは、京都魔法高校の生徒会が乗っている飛行機だ。大きな問題も無く、すんなりと彼が移動手段を手に入れたのは、稲荷による働きかけが大きい。
「そんなに気にしすぎることもないんじゃないですかぁ? 会議を欠席するわけでもありませんですしぃ」
「それもそうね。島に着いたらささっと会議の準備でもしちゃいましょうか」
僅かな心配も、いろはのゆったりとした声を聞けば薄れていく。
気がつけば飛行機は既に着陸間際となっており、地面との距離はみるみるうちに縮まっていた。
軽い振動をたてて、車輪が飛行場の地面を掴む。
約30分のフライトを経て、恵達は魔法高校交流会の会場、逢羅成島に到着した。
「まずは荷物を持って移動するぞ。他の魔法高校の生徒会もこの飛行場に着陸してくる予定だ。混まないうちに宿舎まで行ってしまおう」
一彦が先頭、最後尾に立花が立ち、6人は飛行機を降りた。
夏の強い日差しは、9月ではまったく衰えを見せない。
刺すような陽の光と高温多湿の環境で、少し歩くだけでも汗が滲むほどだ。
そこへ突然流れ込んできた、季節違いの冷気。
発生源は、ちょうど彼らから見て、今まで乗っていた飛行機の死角の位置だ。
冷気の発生源へ降り立った1機の飛行機。
そこから降りてきたのは——。
「両手に花とはやるねぇ、蒼真君。それも、2人ともかなりの美人。ね、会長」
「香織ちゃん!? な、何で私!?」
「なんか結城君を取られちゃったみたいですねぇ。同じタイミングで着いたことですし、呼んできましょうかぁ?」
「別に無理に呼ばなくても……」
恵は蒼真がいる方へ視線を向けると、彼のすぐ横に立っていた稲荷と目が合った。
稲荷も彼女の視線に気がついたようで、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「ほら蒼真、白雪行くで。東京の生徒会長さんが待っとる」
稲荷は自分の荷物を他の生徒会メンバーに任せると、蒼真と白雪を連れて恵の元へ向かった。
「おはようございます、光阪会長。今年の交流会はお手柔らかにお願いします」
「あまり手抜きもできないですけどね。それに、今年の京都校は良い魔法使いが揃ってると聞いてるわ」
前年度の交流戦は、東京校が2年連続の総合優勝を果たしている。
他の魔法高校と比べても多い「副元素」に加え、「七元素」光阪恵が入学したことも要因となっていた。
「良い魔法使いですか。ここにいる蒼真も、京都の方に入ってくれたら良かったんですけどね。生憎東京さんに取られちゃいましたわ」
「……あなた達、やけに親しそうね」
「まぁ、小さい頃からの長い付き合いになるので。よく見知った仲ではありますね」
年上でも遠慮なく挑発まがいの発言を続ける稲荷を放って、蒼真は立花の元へ向かう。
「すみません。俺だけ別便になってしまって。今からは合流して動けます」
「そうですか。京都の引率の先生には、ここで別れることは知らせてるの?」
「はい。先生や先輩達の姿が見えたので、飛行機を降りる時に伝えておきました」
「そう、それなら良いわ。後で私の方からもお礼をしておきます」
別行動をしていた蒼真がようやく合流したというのに、生徒会長達は未だに舌戦を繰り広げていた。
笑って眺める香織といろは、ため息をつく一彦。彼らに止める意思はなさそうだ。
もはやこうなれば動けるのは蒼真しかいない。
「稲荷さん、もう俺も合流できましたし、自分の生徒会の方に戻っても大丈夫ですよ」
「ん? あぁ、どうせ行き先同じやし、東京と京都で一緒に向かってもええんちゃう。光阪会長ともうちょっと話してみたいしな。光阪会長もそれで良いですか?」
「ええ。私も2年生で会長を務めているあなたに少し興味があってね。どこかの機会でお話しできればと思っていたの」
その後、京都魔法高校の生徒会メンバーも同行し、思いがけず大所帯となった一行は、交流会の会議会場及び、学生の宿泊施設となる魔法自衛隊宿舎へ向かうこととなった。
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