第16話 実験体達
「20年ぶりだな、『最終実験体』」
「……」
如月は驚きのあまり、口が開いたままだ。
「お前には俺の能力の事は話していなかったな。再会の記念に、少し昔話でもしておくか。俺とお前の話を」
先程とは逆に、黙ったままの如月に対して男は語りだした。
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時は第三次世界大戦中まで遡る。
世界中で様々な魔法の研究が行われていた。
もちろん日本も例外ではなく、現「七元素」や国家が中心となって進めていた。
ただ一家を除いて。
その一家が「七元素」の1つである、
闇斎家だけは、今でも異色の「七元素」として他の家とは距離を置かれている。
そんな闇斎家では、魔法実験と称して独自の方法で魔法の研究を進めていた。
その目的こそが、人工的に魔法使いを作り出す事だ。
魔法使いになるには、個人の持っている魔力量や素質が重要である。
しかし、素質の無い者に無理矢理魔法実験を行う事で、魔法使いにさせようとしたのだ。
魔法実験も完璧に行われるという訳ではない。
当時は技術的に未熟で、危険度は現在と比べ物にならないほど高かった。
そんな事情から、人体実験は被験者が見つからず、進んでいなかった。
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世界は戦争の真っ只中、日本ではある出来事が起こった。
災害の多いこの国にはつきものの地震である。
かなり大きな被害をもたらしたこの地震で、残念ながら死者が6人でた。
いや、6人でたとされた。
混乱に乗じて6人を拉致し、ある施設に隔離されせてたのだ。
その施設とは、闇斎家の魔法実験所である。
なぜ彼らは拉致される事になったのか。
無論、誰も手を挙げない魔法実験の被験者とするためである。
その6人のうちの1人が、如月と対峙している男であった。
彼を含めた全員に施された魔法実験は、強力な魔法を使えるようになる代わりに、自己を無くしてしまうというものだった。
自己を無くさせる事によって、闇斎家がその被験者を操りやすくしようと考えたのだ。
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なぜ、男は拉致される事になったのだろうか。
地震発生後、彼は瓦礫の下敷きになってしまっていた。
そうして、意識のないまま施設まで運ばれてしまったのだ。
同じようにして他の5人も集められたようだ。
しかし、この6人が実際に顔を合わせる事はなかった。
それぞれ別の部屋で隔離されていたのだ。
そして1人ずつ実験が行われていった。
それは、人を人とも思わない冷酷非道なものだった。
その結果、6人中5人が死亡し、あの男が1人生き延びた。
男は実験に成功したから、生き延びる事が出来たのだろうか? いや、そうではない。
闇斎家からすれば、この結果は大失敗というしかないものだった。
実験の結果、男はある特殊な能力を身につけてしまったのだ。
その能力とは、魔素を強制的に自分の魔力へ変換する事。
そして、魔力がある限り不死身の体になった事だ。
戦時中から生きている男が、現在も生きているのはこの事が原因である。
そしてこの結果から、男は「
闇斎家は、不死身となった男でさらに実験を続け、同じように不死身の肉体を手に入れようとしたが、その願いが叶う事はなかった。
そして、ある事故を境に男は実験を受ける事はなくなった。
その事故とは、男の魔力を強制的に抜く実験の最中に起こった。
魔力がある限り不死身の男から魔力を限界まで抜くと、どうなってしまうのか。
男から意識がなくなり、ただ魔力を求める獣のように暴走してしまうのだ。
背中や腕からは禍々しい触手のようなものが生え、空気中の魔素を取り込み終わると、今度は人体中の魔力を取り込もうと人を喰らいだすのだった。
二度と暴走して被害を出さないためにも、この男は施設の奥の日の届かない暗闇に幽閉される事となった。
男での実験は中止となったが、闇斎家はさらに卑劣な方法を取り、実験を続けだした。
施設内で子供を作り、その子供を実験体として使用したのだ。
そして26年前、後に如月と呼ばれるようになる子供、「最終実験体」は生まれた。
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26年前、実験の成果がなかなか出ない闇斎家は、実験を打ち切る事を決めていた。
その最後の実験体が、如月である。
如月は好奇心旺盛な子供だった。
当時は、実験体の子供は2人1組で部屋で過ごしていた。
同室の実験体は1680号と呼ばれていた。
彼に名前はなく、ただあるのはこの数字だけだった。
彼と如月は、よく部屋から出て行くことがあった。
実験以外で部屋から出るのは禁止されていたが、子供だった彼らには規則より、外への興味の方が大きかったのだ。
2人が5歳の時、ある出会いがあった。
いつものように部屋を抜け出し、2人は歩いていた。
しかし、異なる点が1つあった。
彼らは施設の中でも、入ったことのない通路まで入ってきてしまっていたのだ。
「ここはどこなんだろ?」
「わかんないけど、進もうよ!」
不安そうな1680号を引っ張るようにして、如月はどんどん奥へ進んでいった。
進むにつれて暗く、狭くなっていく通路。
そして、ついに行き止まりとなってしまった。
「もう進めないね…」
「……だね…」
2人は諦めてもと来た道を戻ろうとしたその時、
「そこに誰かいるのか?」
「「!!」」
壁の中から急に声がしたのだ。
「誰?」
恐る恐る、如月は尋ねた。
すると、壁だったところがだんだんと牢屋のような鉄格子に変わっていった。
魔法によって変えられていたのだ。
「俺か。俺の名は何だったか、忘れてしまったな。だが、この施設の人間からは『異例者』と呼ばれている」
「僕は、『最終実験体』です」
「1680号です…」
2人は「異例者」という言葉は聞いたことがなかったし、なぜ閉じ込められているのかなど知りたい事はあったが、聞くようなことはしなかった。
そして部屋から抜け出すたびに、「異例者」の元へ出かけるようになったのだ。
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