第11話 初仕事
蒼真、香織、いろはの3人は生徒会室を出て、風紀委員会議室に向けて歩いていた。
「それにしても、あの子本当に運が悪いですねぇ」
「そうだな」
「何がですか?」
蒼真は2人の会話に疑問を抱いた。
「いや、あの明智さんが会長に捕まってたじゃん。あそこでの仕事って大変なんだよ」
「そうなんですか。先輩方は去年経験されたんですか?」
「私はしてないですけど、香織さんがしてましたねぇ。去年の会長と一緒に」
「ほんと、あれはきつかった……。まさに地獄だった」
香織は1年前の事を思い出しているようだ。
「香織さんが倒れそうになるくらいでしたもんねぇ。あの時だけは、弱気な香織さんが見れたのでラッキーでしたぁ」
「あまり思い出したくないな。あの期間ですごい太ったんだよ。ストレスで」
そう彼女は本当に嫌な顔をしながら言った。
「そういえば副会長。風紀委員長ってどんな方なんですか?」
まだ面識のない蒼真は、知っているであろう香織に尋ねた。
「そんなに堅苦しくしないでいい。そんな役職で呼ばなくても。君も副会長だしな」
「わかりました。以後そうします」
「……えっと、風紀委員長の事だったな。あの人はとにかく強いぞ。会長や赤木先輩とも実力はいい勝負だと思う」
「そうなんですか。それは驚きです」
「でも、今年の1年生も実力者が揃ってると聞きますよぉ。えっと……何でしたっけ? この学年って何か呼ばれていたと思いますがぁ……」
「『
他校を含む、蒼真達の学年には「七元素」の跡取り7人のうち、3人が揃っている。
また、「副元素」の家系の優秀な子供も多くいるため「黄金世代」と呼ばれているのだ。
「そろそろ着くな。蒼真君はここの会議室に来るのは初めてか?」
いつのまにか呼び名が変わっている事に蒼真は気づいたが、あえて指摘する事もなく質問に答える事にした。
「はい。前を通ることはありましたが、実際に入るのは初めてです。用事も無かったですし」
「私もここに来るのは久しぶりですねぇ。やっぱり生徒会室以外の場所は緊張しますねぇ」
「アタシよりず太い神経してるくせに何言ってんだよ。ほら、入るぞ」
香織を先頭に3人は会議室へ入っていった。
「失礼します。生徒会です」
中には10人ほどの生徒が座っていた。そして、部屋の一番奥に風紀委員長と思われる女子生徒が座っていた。
「生徒会の皆さん、今年もよろしくお願いします。今日は3人ですか?」
「そうですぅ。よろしくお願いしますぅ」
相手が風紀委員長にも関わらず、いつも通りの様子のいろはである。
「ではさっそく見回りの方を始めましょうか。副会長の雨宮さんは残ってもらえますか? 何かあった際はここで処理しますので」
「わかりました」
「あとの2人は、他の風紀委員と一緒に見回りをお願いします。補助装置は持ってきていますか?」
「持ってきていますよぉ」
「えっ? 永地先輩、俺聞いてないんですけど」
何も聞かされていなかった蒼真は思わずいろはの方を見た。
「大丈夫ですよぉ。生徒会室にあったのを持ってきてますからぁ」
「でも、それって……」
「整備はされてないけどな」
のんびり答えるいろはに変わって香織が答えた。
「……」
こうして彼らの仕事がはじまり、蒼真はちゃんと自分の補助装置を持ってこようと心に決めた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
魔法高校には、大きく分けて2種類の部活団体がある。
魔法系団体と非魔法系団体である。
その差は文字通り、魔法を使うか使わないかの差だ。
魔法系の競技は魔法高校、大学では夏に対抗戦が行われる。
そして、非魔法系の競技は普通高校の大会にも参加している。
共通しているのは、どちらも新入部員が欲しいということだ。
普段は生徒会と風紀委員以外は、原則として禁止されている補助装置も、この勧誘期間の間だけは学校の方に申請すれば持ち込むことができる。
なので、少しトラブルが起こることもあるのだ。
蒼真は、毎年小さい問題が起こるという魔法系団体の部室が集まっている場所を仕事場所に割り振られた。
「あっ。蒼真!」
不意に後ろから彼に声が掛けられた。
「修悟か」
蒼真は振り返った。
そこには修悟、直夜、リサが立っていた。
「仕事頑張ってるみたいね!」
「ああ。お前達は部活見学に来ていたんだな」
「部活は入っておいた方が良いと思ってね」
「楽しそうだしね!」
魔法使いとはいえ、高校生だ。
部活動も楽しみなのは年相応といったところか。
「あまりトラブルは起こすなよ。あと、厄介事には巻き込まれるないように注意しておけ」
「わかってるって。気をつける」
蒼真は彼らを見送り、見回りへと戻った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それから何の問題も起こらないまま、勧誘終了時刻10分前となった。
場所を変えずに見回りをしていた蒼真の元へと、香織から連絡が入った。
『蒼真君。ちょっと射的場まで行ってくれないか?』
「わかりました。何があったんですか?」
『君が向かっている間に話す』
そう言うと、香織の説明が続いた。
彼女の説明によると、射的場で勧誘している部活団体同士でのトラブルが起き、近くで魔法射撃の体験をしていたので、銃が暴発してしまったそうだ。
蒼真が射的場に着くと、トラブルを見に来た生徒で溢れかえっていた。
「すみません。生徒会です。少し離れてもらえますか?」
人混みをかき分けて、なんとか彼は騒ぎの中心へと行くことができた。
「永地先輩も来てたんですか」
「香織さんに呼ばれちゃいましてねぇ」
事故の現場である射的場には、いろはの他にも風紀委員も数人集まっていた。
そして、その中には澪の姿もあった。
「起こったことを詳しく聞いてもいいですか? だいたい何が起こったかくらいしか聞いていないので」
「そうですかぁ。香織さん説明するの下手ですからねぇ。私がここの責任者を任されちゃいましたし、私からも話しましょうかぁ」
「よろしくお願いします」
蒼真は案外いろはが頼りになる事を意外に思った。
というよりも、香織が大雑把すぎるのか。
「あっ、説明でしたねぇ。いろんな部活が、いろんなところで勧誘をしてるじゃないですかぁ。だから射撃場までここで活動している部活以外の団体が来てしまって、トラブルが起こってしまったらしいですぅ。ちゃんと自分達の活動場所で勧誘しなかったから、擁護のしようがないですけどねぇ」
「体験中に事故が起こった事とは関係はあるんですか?」
「今調べているんですけど、まだわかってないんですぅ。射撃部員も銃の整備はしていたとは聞いているんですがぁ」
「そうですか……。怪我人は出たんですか?」
「幸いにもいませんでしたよぉ。それだけが救いですねぇ」
いろははいつも通りの表情をしているため、安心しているのかどうかはわからない。
「暴発した銃を見せて頂いてもいいですか?」
「いいですが、どうしてですかぁ?」
疑問を持った彼女はそう尋ねた。
「魔法器具をよく見てみると、直前に使われた魔法の事がぼんやりでもわかる事があるんですよ」
「そうなんですかぁ。初めて知りましたよぉ。それって、誰か手助けが必要だったりしますかぁ?」
「そうですね。手の空いている人がいればですが……」
いろはは周りを見渡して、人を探した。
「そこの1年生。手伝ってもらってもいいですかぁ?」
彼女は近くにいた澪に声をかけた。
「君も同学年の方がやりやすいですよねぇ」
さすが2年生といった気の配りようである。
「そうですね。ありがたいです」
蒼真は意図せずに澪と行動する事となった。
「銃は生徒会室で預かっているそうなので、よろしくお願いしますぅ」
「わかりました。何かわかり次第、連絡を入れます」
「よろしくお願いしますねぇ」
蒼真は澪と共に生徒会室へと向かって行った。
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