第7話 帰路
蒼真達6人は、帰り道に学校近くのハンバーガーショップに立ち寄っていた。
「私こんな所初めて来たわ!」
リサが物珍しそうに言った。
「本当に? リサさんっていろんな人といろんな所に行ってそうなのに」
修悟が意外そうに言った。
「そんな事ないわよ! だって、基本的にはずっとシノと2人でいたんだから!」
「そうね。小さい頃から一緒だったもんね」
「いいなぁ……幼馴染って……。憧れるよ」
「修悟にはいないのか? そういう人」
直夜はハンバーガーを頬張りながら尋ねた。
「いないよ。それに兄弟もいないから、なんだか憧れるんだ。それより直夜。食べながら喋るのは行儀が悪いよ」
「そうよ。そろそろそういうところは直すべきよ」
「わかったわかった」
今度はポテトを食べながら答えた。
「幼馴染といえばさ、あいつ今頃どうしてるかな……」
ポテトを咥えたまま彼はそう続けた。
「ああ、あの子ね。ちょっと心配な事もあるけど、京都で元気にしてるんじゃない?」
「え? レイ達に、まだ幼馴染がいるの?」
「ええ、京都にね。同じ学年だし魔法高校に通っているから、近いうちに会う事にもなるかもしれないわね」
「そうなんだ! それは楽しみね!」
そう盛り上がっている彼らをを眺めながら、蒼真は店に寄るにあたって、気になっていた事を尋ねた。
「修悟、志乃、リサ。お前達、こんな時間にこんな所に寄っていていいのか?」
「僕は大丈夫だよ。もう家には連絡したから」
「私達も大丈夫!」
「そうか。それなら安心した」
蒼真はあまり顔に出さなかったが、彼らの事を心配していたのだ。
「ずっと気になってたんだけど、何であの時不知火達に囲まれてたんだ?」
食べる物が無くなった直夜が、右手にコーラを持ったまま尋ねた。
「それは……」
「なんか『副元素』がどうとか『無元素』がどうとか言ってきたの! 私も一応『副元素』なんだけど、そういう事は嫌いなのって言ってやったら、あんな事になっちゃった!」
リサは笑いながら言った。
実際のところ、「副元素」の者達は自分達が優れている、「無元素」は劣っているという考えが彼らの中にはある。
しかし、彼女のようにそのような考えを持っていない者や、志乃のように「無元素」であっても優秀な魔法使いはたくさんいるのだ。
蒼真は例外中の例外なのだが……。
「でも彼らももうわかったでしょう。特に不知火君はね。自分より成績が良い『無元素』の2人がいるのがわかったんだもの」
話を聞いていた澪が静かにそう言った。
「でも、あの時にシューゴが走って来てくれて嬉しかったわよ!」
「いや……あの時はカッとなっちゃってて……」
修悟は恥ずかしそうに俯いた。
「それよりも危なかったのは直夜君だよ。副会長の魔法が無かったら、不知火君の魔法が直撃してたんだよ!」
「あんなの受けても平気だって。怪我1つ負わない自信があるぞ!」
いつの間にか追加でチキンナゲットを買って来ていた直夜が胸を張って言った。
「直夜……一体どこからそんな自信が湧いてくるんだい?」
修悟が呆れ顔で言った。
不知火はまだ高校生とはいえ、「副元素」の1人だ。
その彼から放たれる魔法の威力は決して弱くはない。
「遺伝よ。魔法に対する耐性があるの」
澪が直夜の代わりに答えた。
この直夜の魔法に対する耐性というのは、表上遺伝という事になっているが、実は蒼真だけでなく直夜にも秘密があるのである。もちろん澪にも。
そしてその秘密は結城家の鬼人化に大きく関係するのだが、このような公の場で言える事ではなかった。
「いい力だね。僕とは大違いだ……」
「どうしたのシューゴ?」
「僕は遺伝で魔力の回復が遅いんだ……。デメリットでしかないよね……」
「修悟。お前はそれでも、この学校に成績上位者が集まるA組の生徒として入学してきたんだ。遺伝による体質がどうであれ、お前は自分自身の力、努力でここまで来ている。もっと自分に自信を持ってもいいんじゃないか?」
蒼真が悟すように言った。
魔法高校の偏差値はかなり高い。
魔法使いの素質があるだけではこの高校に入学するのは難しいのだ。
「そうよ! もっと自信を持って!」
「そうだね。頑張ってみるよ。ありがとう蒼真」
修悟の表情が少し明るくなった。
「じゃあ私も遺伝についてどんどん言っちゃおうかな!」
「やめときなよ。そういうの言う事じゃないよ」
変なスイッチが入ったリサを見て、まずいと思ったのか志乃は懸命に止めようとしている。これぞまさに幼馴染といった光景だ。
「じゃあ得意な魔法の事でも話しましょ!」
「それなら……」
自由奔放なリサに振り回され、志乃は疲れ切っていた。
これが彼女達の日常なのだろう。
「私はね、やっぱり光の魔法かな! 『
「意外と武闘派なんだね。僕は風の移動系の魔法だよ。あれ結構便利なんだ。遅刻しそうな時とか」
「私も光魔法。リサとよく練習してたから。でも私が使うのは光の眩惑魔法だから、実用性は低いかもね」
「俺は身体強化魔法だな。属性ってあったっけ?」
「あなたのその魔法は無属性よ」
「だそうです」
「……」
「……」
「……レイとソウマは?」
「「言わないとだめ(か)?」」
2人はまるで前もって声を合わせる事を決めていたのかのように、同時にそう言った。
「いや、どっちでもいいよ。あまり公にするような事でもないしね。話したくなかったら大丈夫だよ」
「……俺にはこれといった得意魔法はないな。俺は基本的にはある程度の魔法なら同じくらいのクオリティで出せるから、あまり突出して得意な魔法とかは無いと思う」
「私は回復魔法。怪我をした時とかは便利よ」
それぞれがそれぞれの得意魔法を暴露すると、特に澪の方へと視線が集まった。
「レイって回復魔法が使えるんだ!」
「あの魔法って習得するのが難しいって聞いたんだけど、どうだったの?」
「すごいね、澪さん!」
次々に驚きの声が上がった。
なぜなら、回復魔法はそう簡単に習得できるものではなく、しかも高校生で使える者は0と言っていいほどほとんどいないのである。
「そんな事ないわ。あなた達だって練習すれば使えるようになるわよ」
「それでもすごいわ! でもみんなもいろんな魔法が使えてすごいと思うわ!」
「そうね。それに蒼真君って何でも同じくらいで使えるって言ってたけど、それも高い技術がないとできないわ」
「さすがはトップ入学者だね」
普通の魔法使いは、得意属性の魔法を磨いて精度を高めていくのだが、そういった点でも蒼真には他にない才能を持っているということになる。
「まぁこの話もそろそろ終わりにしよう。明日は全校集会があるんだ」
「あっ、忘れてた。前のオリエンテーションの時みたいにギリギリになるところだったよ」
「なら、そろそろ解散にしましょうか」
「そうね」
6人は店を出てそれぞれ帰ることになった。
「今日は楽しかったわ! みんなまた明日ね!」
「ああ、また明日」
そう言って蒼真、直夜、澪の3人は他の3人と別れて帰って行った。
「おい蒼真。あいつらの前で澪の回復魔法とかお前がいろいろ使えるとか言ったけど、大丈夫なのか?」
「ああ。あいつらなら大丈夫だろう。お前も感じただろ。あいつらは信用できると」
秘密を抱えた3人は、家へと夜道を歩いていくのである。
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