習作1 ゴリラ化面の謎【解答編】
解かった。
その軽い興奮が彼の口元を綻ばせた。被疑者の一人、ふな子はオカルト好きの人見知り、これが綺麗に嵌まり込んだ瞬間だった。目の前の神官青年は逆に不思議そうな顔で彼の瞳を見つめ返している。
近所とはいえ、人見知りが出入りできている家屋というからには、厳しい条件が付されてしかるべきだ。住民達とかなり親しく打ち解けていなければ無理なことだろう。シェアハウスという特徴からして、そうでなければいつ誰と出くわすかも知れない場所なのだから、気軽に出入りなど出来ようはずがない。
ふな子はシェアハウスの住民たちと気心が知れるほどの仲良しであり、住民ばかりでなく、あの家屋に出入りする全員とも打ち解けている。
あのシェアハウスに出入りする人間達は、全員が親しい付き合いのある間柄ということになる。
つまり、ふな子によってある人物がオカルトチックな事柄を吹き込まれる可能性は大いにある、ということだ。それが、事故続きのバイクに関してだったなら、持ち主は当然気に掛けることにもなろう。幸い、ごく近所に神社もある。ここにお祓いでも頼もうという気持ちになったとしても不思議ではない。
そして、神社の神主が儀式の装束のまま、こうして人待ち顔でぶらぶらしているとなれば……さっきのゴリラがバイクの持ち主の絵美梨であり、何らかの事情で儀式の前に出掛けた彼女を待っていると見てもいいはずだ。
ズバリ、ゴリラは絵美梨だ。
恐らく、日焼け止めの化粧品が切れていたとかで急遽買いに出たのだ、あの女なら商店にゴリラマスクで飛び込むくらいは平気でやれるはずだ。
こちらを眺めている神職青年に、彼は問いかけた。
「待ち合わせているのは、絵美梨さんでしょう?」
「ええ、そうですけど……。なんで彼女を知ってるんです?」
訝しげな青年の顔を見るうちに、少しばかり後悔の念が浮かぶ。来たばかりでほとんど何も解からない新参者という触れ込みでいたことを忘れていた。
神職の彼はしかし、いきなり得心がいったとばかり明るい表情になり、ぽん、と手を打った。
「ああ! 周辺情報を集める一環で調べたんですね、ご苦労様です。」
「え?」
ドキリとした。いや、まさか。まだ何も話していないはずだと、ここ数日の記憶を辿って確認した。そう、自身の正体に関して悟られることは何も話してはいない。
「公安から来た新しい担当の刑事さんでしょう? 隠したって解かりますよ、東京から来た人があんな古いアパートの、しかもこんな京都の端っこになんか住みたいわけないですし。平日の昼間にうろうろしてるのもおかしいでしょう?」
彼は一気に畳み掛けた。
「仕事を探してるとか仰っていた割に、こんな立地で居を構えることがそもおかしい。もっとアクセスのいい場所はいくらもあるでしょう。今日もうちの周りでのんびりしてるようだから、変だなと思っていたんですよね。カメラを壊したところを見ても、何も聞こうともしないし……」
気付いていたのか!
まったく素振りも見せなかったくせに、いけしゃあしゃあと、彼はこちらを探っていたと告白した。
国の指定するカルト教団の教祖は、しれっと、そうして握手を求めてきた。
「改めてよろしくお願いします。縣恭介です。」
彼の方では観念して、不承不承と右手を差し出した。
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます