バグゲーオンライン
@yokuwakaran
第1話
スゲーよ。
無料ガチャで開始直後にSR6枚引いちまった。
スカンジナビアオンライン・・・北欧神話をモチーフにした期待のフルダイブ式のVRMMOだ。
期待のVRMMOだった。
つまらないのか?
そこまでたどりついていない。
面白いつまらないを論じる価値が出るのは「ゲームとして成立している」というのが大前提だ。
つまりスカンジナビアオンラインは完成したゲームではないのだ。
海の上を歩くNPC、壁をすり抜けるNPC、いったんスクロールし消すといなくなる中ボス、しかもその中ボスを倒さないとゲームは先に進まない。
数々のバグが報告され、動画サイトにはバグ動画の数々が投稿された。
運営はバグを直すのにてんてこまいだった。
キャラクターが近くにいると表示されているキャラはこちらのほうを見る。
だがキャラクターの首関節の可動域が広すぎるのだ。
後ろを向いているキャラがこちらのほうを向いている。
体はこちらに背中を向けているが、首はこちらを向いている。
まるで映画の『エクソシスト』だ。
そのバグは修正された。
しかし「他に直すべきところあったんじゃないか?
確かに首が真後ろに向くバグは怖かったけれど、ゲーム性には影響はなかった。
もっとゲーム性に関わる部分で直す部分あったんじゃないのか?」と言われていた。
『スカンジナビアオンライン』は低予算すぎた。
この時代、ゲーム制作はアジアの国々で作られる事が多い。
何故か?・・・アジアの国々は人件費が安いからだ。
『スカンジナビアオンライン』は海外の企業に仕事を頼みに行く予算もなかった。
つまり、自前でプログラムしているのだ。
自分達が多く関わると普通品質が上がる。
海外の下請けに任せきりにするとゲームの品質が落ちる・・・それはゲームだけではない。
アニメなどもコストカットのため、近年ではアジアの国々に下請けを頼むのが普通になっているのだ。
しかし『スカンジナビアオンライン』は今日珍しい純国産のVRMMOだ。
『スカンジナビアオンライン』がバグまみれなのにはいくつか理由があった。
一つの理由に『少人数で作っているから』というものがある。
オープンワールドのVRMMOを二人のプログラマーで作っているというのがおかしいのだ。
グラフィックデザイナー、シナリオライター、テストプレイヤーはいないというか0.3人いるというべきか兼任というべきか・・・。
メインプログラマーがたった一人のグラフィックデザイナーであり、シナリオライターであり、テストプレイヤーだったのだ。
そもそもスカンジナビアオンラインは何人で作られたのか?四人だ。
バグまみれだったのは人数不足だからだけではない。
それがもう一つの理由『驚くべき低予算』である。
ゲームを作る者が皆『マインクラフト』のような大ヒットを夢見ている。
しかし、ゲーム作りにはお金がかかる。
いや、かかるようになってしまったのだ。
かつてゲームはアイデア勝負で学生がプログラミングしたゲームがヒットしたりしたものだった。
『ドラクエ』をやって、「モンスターを戦わせるって面白いな」と思ったゲーム好きが作ったのが『ポケモン』だ。
作った人がどれだけゲーム好きかというのが、作った人が所属していた『ゲームフリーク』という会社名からもわかる。
だが今はゲームがいくら好きでも、アイデアがあってもゲームはつくれない。
ゲームを作るには金と人手と時間とプログラミング技術が必要なのだ。
『スカンジナビアオンライン』のプログラマー兼社長にあるのは情熱だけだった。
しかしゲーム作りに情熱は必要なく、時に邪魔になる物だ。
「こういったものが作りたいんじゃない」というこだわりは時にゲーム作りの邪魔になるのだ。
『スカンジナビアオンライン』の制作費は200万円、社長のサラリーマン時代の貯金だ。
社長の貯金は3000万円以上あった。
だがその貯金全てを制作費に回せる訳ではない。
会社が入っているテナント費、開発機材を揃える費用、社員の給料・・・その他もろもろを差し引くと、開発費には200万円しか残らなかったのだ。
テストプレイなどは全くしていない。
そもそもテストプレイヤーなどいないのだ。
テストプレイヤーがいたとして、数ヵ月をテストプレイに費やす会社の体力などない。
「バグがないと良いなぁ」という祈りを込めて『スカンジナビアオンライン』はリリースされた。
しかしバグが無い訳がない。
むしろバグまみれだったのだ。
毎日新しいバグの動画が上がる。
『スカンジナビアオンライン』の製作会社の社長は私財を投じ、借り入れられるだけの借り入れ金をしてどうにかバグの除去作業をしていた。
しかしある日の『運営からのお知らせ』にこう書かれていた。
「どんな非難でも甘んじて受けます、ごめんなさい」
夜逃げである。
お知らせには続きがありこう書かれている。
「有料ガチャは廃止し、無料ガチャに有料ガチャの内容を含みます」
僕は無料ガチャに含まれていた、本来有料ガチャに含まれていた内容に浮かれていたのだ。
事実上のサービス終了である。
しかし既に支払われているサーバー代が続く限りは『スカンジナビアオンライン』はプレイ可能だろう。
いつ終了になるんだろうか?
突然終わるのだろう。
しかし、僕はそんな事は知らずに運営が夜逃げした後『スカンジナビアオンライン』を始めた。
「あれ~?
このゲーム、有料ガチャないな~?
探せばどっかにあるんだろうな~?」と思っていた。
僕はまず自分の分身、アバターを決めた。
・・・と言ってもPCに付いている小型カメラで写真を撮って僕の実物と寸分違わぬアバターをゲーム内で再現するだけだ。
登録名は『クロキ』にした。
苗字が『黒木』だからで大した意図はない。
「どういう事だ?
『クロキ』って登録したよな?
『ηロキ』って何だよ?
『ク』が文字化けしてやがる・・・
バグか?
・・・まあいいや、ガチャでも引こうかな?
だいたい『スタート応援キャンペーン』とか言って最初だけ有料ガチャを無料で引けたりとかするんだよね。
有料ガチャってどこにあるんだろう?
まあいいや、とりあえず無料ガチャでも引こうかな?」
・・・などと考えて冒頭にいたる。
しかし誰もいない。
あとから考えるとこんなバグゲー、クソゲーをやっているのは世界中で僕だけだったのだろう。
まあいいや、もう眠くなってきたしログアウトして続きは明日にしよう。
・・・どうやってログアウトするんだろう?
僕がログアウトの方法がわからず悩んでいると、目の前が暗転した。
どこからともなく『スカンジナビアオンラインは終了しました』と聞こえてくる。
目の前が暗転したのは一瞬の事ですぐに目の前は明るくなった。
すると川の上を歩いていたNPCが一斉に川の中に落ちて溺れ始めた。
「川の上歩いてたんじゃないの!?」僕はビックリして言った。
「人間が水の上を歩ける訳ないだろう!
そんなアホな事言ってる暇があったら助けてくれ~!」溺れているNPCは僕に向かって叫んだ。
「NPCがしゃべった!?」僕はあまりの事に慌てたが言われた通り溺れているNPCを引っ張り上げた。
「ありがとうございます。
ロキ様!」溺れていたNPCは言った。
「ロキ?ロキって誰?」僕は聞いた。
「ロキは貴方です。
ステータスを見て下さい、そこには名前も書いてあるはずです」NPCは言う。
ステータスを見る?どうやって?
とりあえず「ステータスよ開け」と頭の中で念じた。
ステータス画面が空中にあらわれた。
ステータス画面の一番最初に名前が書いてある。
『ηロキ 職業半神 LEVEL-1』
レベル1の半神ってすごいんだかすごくないんだか、強いんだか弱いんだかわかんねーな。
「僕って強いの?弱いの?」僕はNPCに聞く。
「神に言う事じゃないですが、貴方様は『なめてんのか!』ってくらい弱いです。
ですが貴方の仲間、貴方の子供達が『なめてんのか!』ってくらい強いです」
仲間?子供?
僕がガチャで引いた6人のSRのキャラクター達は『フェンリル』『ヨルムンガンド』『ヘル』『ナリ』『ヴァーリ』『スレイプニール』であり、どいつもこいつも肩書きは『ロキの子供』だった。
「貴方自身は最弱ですが、貴方の子供達は最強です。
貴方は『虎の勢を借る狐』です」
人聞き悪い事を言わないで欲しい。
色々わかってきた。
登録名の『クロキ』の『ク』が文字化けして『η』になってしまったから僕はロキなんだ。
・・・で名前に引っ張られて僕は半神なんだ。
で、ガチャでロキの子供達を偶然引き当てたって訳だ。
そんなんどうでも良いけどどうにかログアウトする手段ないのかね?
しかし、それはNPCに聞くべきじゃない。
この世界に生きてる外の世界を知らないNPCにログアウトって言っても通じる訳がないよな。
ログアウト方法は他のプレイヤーに聞こう。
NPCには別の事を聞こう。
「僕には特技とかないの?
ひたすら最弱なの?」僕はNPCに聞いた。
「ステータスの最後に『特技』があります。
そこに書いてなければ『貴方には特技がない』という事です」NPCは言った。
「特技は・・・と、あった!
『変化』か。
どんな特技なの?」僕はNPCに聞く。
「わかりません。
『変化』は汎用の特技ではありません。
どんな効果のある『特技』であるのかは貴方様が確かめてみるしかないのです」NPCは言った。
「そうか、この『特技』は僕が使って確かめるしかないのか」僕は変化の特技を使った。
北欧神話のロキは老若男女何にでも変化出来たという。
「ロキ様、まるで可憐な少女のようです」
『変化』の特技のステータスの備考にはこう書かれていた。
「『変化』は一度使うと五年間は使用出来ない」
そうか、僕はログアウトも出来ないだけでなく男にも戻れないという事か。
バグゲーオンライン @yokuwakaran
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