第31話法律はあなたを守らない
今度はラッキーメールと称する個人のプライバシーデータが送られるという犯罪が明らかになり、またテレビで特別番組が組まれた。
画面にデスクに腕を置いたメイン司会者が映された。
「視聴者のみなさん、今回の犯行は過去のサイバー犯罪とは非常に異なっています。犯人の要求は国に対しての5000億円の仮想通貨のみで、ハッピーメールやラッキーメールと言った、不特定の個人情報をメールを使って不特定の第三者である個人に送り、国民の不安をあおっています。
個人情報の受信者が名乗りでるまでは、誰のデータが送られたのかわかりません。
また同一人物の情報を二人に送られたケースが判明しており、自分の個人情報を受け取った方が名乗り出たとしても、個人情報を持っているのは決してその人だけとは言えず安心してはいけません」
招いた専門家にアナウンサーが聞く。
「今日は個人情報管理が専門の高斎先生にスタジオにお越し頂いております。先生、今回犯人が特定の方の個人情報を複数の方に送りつけるという事をやっていますが、個人情報保護法ではこのような場合の罪や罰則規定は無いのでしょうか?」
「率直に言うとありません。
想定外の事態です。個人情報保護法では個人情報の定義と官庁や個人情報取扱事業者に関しての情報の取り扱いに関する法律で、このように1個人が1個人の情報を持っているだけでは罪になりません。
メールを送られた人も自ら不正に情報を取得したわけではありませんから取得したことも罪にはなりません。もちろん、一番悪いのは犯人ですがこれは既に多数の罪がありますからね」
アナウンサーが押して聞く。
「先生のおっしゃるのは極端にいうと、送られた1個人の情報を別の個人が内容を見て持っているだけでは罪にならない?ラッキーメールを受信した人も名乗り出る義務はないということですか?」
「バイオ情報の公開をタテに政府を脅迫している犯人は当然警察が追いかけていますが、個人情報を受け取った人は、言うなれば犯人に犯罪に巻き込まれた方なので、情報の受信者が誰かを探す為だけには警察は動かないでしょう。
送られた情報を使って何か犯罪が起きれば別ですがね。
また警察は公表を差し控えていますが、データの送り先は無作為ではなく、特定のリストによる可能性があります。」
アナウンサーが聞く
「先生、その特定のリストとはどのようなものでしょう?」
「こちらで独自に掴んでいるのは、児童福祉法違反のサイトの会員履歴があった人などですね」
「すみません、具体的にどのようなサイトでしょう」
「具体的には摘発された児童ポルノサイトの会員履歴を持つ人、これは証拠がありました。この事が明らかになると、望みもしないのに誰かの個人情報を送られた人も警察に名乗り出るのは人目もあり更に難しくなるのではないかと思います」
耐えかねて若い女性のタレントが言う。
「それじゃ、私たちは自分のプライバシーが入った個人情報を危ない誰かに送られて密かに内容を見られていても、送られた情報を使って犯罪に巻き込まれるまでは警察も動かないし、誰がその情報を持っているかも分からないという事ですか、こんな事はいつ終わるんですか?」
サイバー犯罪の専門家が話す
「今、いつ終わる というご質問についてです。犯人か捕まれば新たなラッキーメールは停止出来ます。但し、今回既に送られてしまった個人情報の回収は難しいと思います。仮に犯人が逮捕された後も、既に送られてしまった個人情報を使って悪い事をする人が出てくる可能性がこれからも多分にあります。
犯人の逮捕によって犯人の使っていたシステムを入手して、送信先のリストと誰の情報が送られたかを特定出来ればある程度の追跡は可能ですが、流出した個人の情報全てを完全に消去した事を証明するのは不可能です。
いつ終わるというご質問には、永遠に終わらないと答えるしか無い状況です。
犯人に個人情報を送られてしまった被害者の方には大変お気の毒だと思います」
スタジオに唖然とした空気が漂った
銀行預金が封鎖された後、納まったに見えた混乱はプライバシーの公開メールの報道で更に過熱した。銀座商店街の自警団の活躍を聞いて、各地で同じような自警団が組織され自分たちの町を警戒し始めた。
怪しいと見て捕まえた人への暴行が行き過ぎた私刑に発展するものもある。
しかも自警団に暴行された人の中には多数の誤解による人がいた。
またこんな時にでさえ、犯人を装ったイタズラメールを出す人間も多数存在した。
海外のメディアではお揃いのユニフォームを着た自警団が、捕まえた人に暴行する場面が繰り返し流される。
アジアのいくつかの国からは日本の軍国主義の復活というような報道も行われた。
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