第23話僕の脳を切るなんて

麻衣さんの回し蹴りがまだ効いている。

渡瀬に無理やり拉致された車の中。僕の口に貼ったテープが乱暴に剥がされた。

渡瀬が言う

「まず、この薬を飲んでもらおう、睡眠薬だから安心しろ。青酸カリなんかじゃない。俺たちは広瀬なんかと違って人は殺さんよ」

部下の手のひらには小さな橙色の錠剤が3錠。

(これはドラール25、長時間タイプの強力睡眠薬じゃないか.効いてくるのは三時間半後か。三錠も飲めば3日は眠り通しだ!薬品使用マニュアルの僕のアレルギー確認なんか、この連中はやらないよな)

僕は覚悟を決めて目をつぶって飲んだ。

レジーがきっと救出の手段を講じてくれるだろうと信じて。


この地域、全てのシステムが一時セキュアブラット社のAIシステムに乗っ取られていても、表面は変わりのないごく普通の街を抜け、大音量のヘッドフォンを耳に付けられて二人に引っ張られてゆき、ヘッドフォンと目隠しが取られた。

目に入るのは小さな奥に細長い形の部屋。

窓のない空間。

白く清潔な病室のようになっている。

本当に病院のような簡易医療ベッドがある。 

しかも拘束具付き。僕はそのままベッドに拘束具で固定された。

首だけ動かして周囲を見る。

そろそろ睡眠薬の影響が僕の体に出始めた。

僕のベッドとはガラス貼りで仕切られた奥のスペースに見慣れたものがあった。

手術台と手術支援ロボット、ダヴインチ。 

よく見るとペイシェントカートと呼ばれるロボットの可動部分にエンブ゜レムが6000と見える。

なんとこれは最新のダヴインチ6000型だ。

第9世代モデル,自立型AIにより本当に無人のロボット手術を行うことの出来るバージョンだ。医療法の関係でまだ日本では認可されていないはずなのに。


こんな所でこれを何に使っているのだ?犯行グループが警察と闘って負傷した時の野戦病院か? まさか渡瀬がスマホの埋め込み事業に参入してウチの病院のライバルになる?の訳はない。


部屋の壁に埋め込まれたモニターに渡瀬が映る。

「やあ、AIマスター。そろそろ眠たくなってきたろう。眠るまえに教えておく」」 ベッドに拘束されたまま、僕は渡瀬の映るスクリーンを見る。

「セキュアブラッド社にようこそ。知らないだろうが、そこに見えるのは全自動の手術ロボットだ。

それを使ってお前の脳を切り開き、電気信号に置き換えてサーバーに保存するそうだよ。そしてラズベリーAIシステムへの侵入とコントロールのノウハウを分析する。お前はとても天才には思えないが、AIへの高度な侵入技術を我々が完全に理解して使えない可能性が高い。

アインシュタインの相対応性理論を知っているか。

発表当時、世界で理解出来る人間が10人に満たなかったという。

超天才のお前の技術も同じようなものだと考えている。 

我々はお前の脳パターンを電子保存して分析しラズベリーAIシステムへの侵入ロジックを完璧に我々のものにする。

ラズベリーAIへの侵入を試みてアタックに今まで3年を掛けて、まだ数年は掛かる見込みだったがお前の脳を解析出来れば数ケ月でラズベリーAIに侵入し自由に操れるようになるだろう。

最もその前にラズベリーAIシステム侵入の秘密を自ら教えるというのなら、そちらの方が話は早いと俺は思っているがね。

これから3日俺たちは忙しいので、ゆっくり大人しくそこで寝ていてくれ。

グッドナイ!」


渡瀬は何を言っている?僕の脳を手術ロボットで切り開いて、脳のパターンを保存して解析する?切り開いた後は元通りにダヴィンチ6000でインストゥルメントのステープラで縫合なんて考えてないよな。なんて死に方だ!


といっても残念ながら僕は彼らの期待する超頭脳を持っていない、ジェイワンAIへの侵入方法レクチャーなんて出来るわけも無い。

僕は強力睡眠薬ドラールが効いてきて、そのまま眠りについた。

モニターのカメラを離れた渡瀬が部下に指示した。


「ハッピーメールを受け取った善意の第三者たちは思い通りに動いてくれているようだな。Xデーを開始する。」

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