第18話RPA野良ロボ&忍者ロボ

彗星のごとく(コピーが古い!)登場したバーチャルアイドル、エル・ベリーのライブ会場。フロアに4000人近くが入っている。

ステージの上には人間のバックバンドが演奏し、照明やPA、サウンドエンジニアに楽器担当のローディなど人間のアーティストが歌うのとまったく変わらない。

特に最新のホログラム投影システムはステージ縦横に動き回るエルを三次元で見事に浮かびあがらせている。

ライブ会場中央部には応援ヲタ芸チームの為に空けてあり、高度な技を持ったいくつものチームがそれぞれ違った芸を見せるのだった。

バーチャルアイドル エル・ベリーのオリジナル曲も増えた。

有名な作曲、作詞家チームがこぞってエルの歌を書きたがる。

確実に巨額の印税が入るのだから当然だろう。

VOXの麻衣さんから聞くと、驚くことにCMの出演依頼が本当にたくさん来ているらしい。

(シャンプーのCMでエルが商品を持って私も使ってます なんて言うのか?)

理由の一つにバーチャルアイドルは芸能スキャンダル系からは無縁だからというのもあるらしい。

確かに相当な費用をかけたプロモーションがメインタレントのスキャンダルで展開不能となれば、商品売り出しのタイミングや掛かった費用など損害は莫大だろう。

麻衣さんは

「それにバーチャルアイドルは恋愛ゴシップとは全く無縁で安全ですので」と言った。

アイドルが誰か特定の人を好きになって公表するというのは、アイドルとCMスポンサーに対してのダメージがとても大きいらしい。

僕の脳裏にネットニュースの芸能欄が浮かぶ。

「エル・ベリーに秘密の交際発覚!相手は人間の男性!」

(いやいや、まずい、レジーにはなるべくCMとは距離を置くように言おう)


そんなエル・ベリーはなぜかライブのアンコールに答えて登場した後に必ず最後に歌うのは、僕とレジー(エル・ベリー)が作った曲(君のプロトコル)だった。



僕は自分の部屋でエル・ベリーのライブ地方公演から戻ってきたレジーと話している。


「レジー、ライブに来ていた人は人間だと年を取ってしまうけど、バーチャルアイドルは永遠の17歳だからいいなあと言ってたよ。ところでレジー、君の本当の年はいくつになるんだ」

今まで話していた可愛いアニメ声がナビゲーションボイスに変わる

「私がいつ生まれたかをどこに設定するかですが、企画段階からとすると52年です」

五十二歳、それは僕の母クラス


「なにか問題でも?」 こういう時のナビゲーションボイスは良くないねえ。

「いいえ何も」


「ところでエル、ライブはどうだった」


「はあーい」とアニメ声がして、エル・ベリーの格好のレジーが部屋のスクリーンに登場した。

スクリーンの隅には脱いだ金色のドレスが掛けてある(細かい演出だ)


「それがおかしいの ライブ入場で使う高速顔認証システムの判断ロジックをAIインタフェースで行なっているのだけど認証データが漏れた可能性があるのよ」

「なぜわかる」

「ライブチケットはスマホのアプリになっていて、チケットを購入する時に自分の顔を登録する。でもこれはワンタイム認証だから、大量入場で処理の後、ライブが開始されたら顔認証データは名前やメールアドレスとリレーションを外して顔とデータの一致を外すのよ なぜかここのライブではその処理がされていない。

しかも顔のデータとのリレーションはそのままで、インデックス処理を行って戻した跡があるの。個人情報ダダ漏れだわ。インデックス処理を行ったのは転送用に行う圧縮処理の効率を上げる為か中継システムの能力が当然と言えば当然だけど私より格段に低いかだわ。

 秘密に行われているこれは無断でデータの二次使用を行う為だわ この処理を行ったのは忍者ソフトウェアロボットね」


「レジー、この前は野良、今度は忍者かい? ソフトウエアプログラムだから、実体は無いんだろ」

「確かに実体はないけども、役割を終えたとか飼い主?じゃない使用していた人がいなくなっても存在して働き続けているのが野良のソフトウェアロボット。

意図的に潜り込ませて仕事をさせるのが忍者ソフトウェアロボットね」

「それは一種のウイルスだろ」

「悪意のあるプログラムはたしかにウイルスだけど、潜りこませるのは必ずしも悪意からだけとは限らない。

密かに潜り込ませておいて、悪意があるプログラムが起動された時に撃退するとかね」


僕の中で擬人化したプログラムが、ここから先はお前らを一歩も通さぬ!それがしは将軍家御庭番 ビーアンダーバーエ一エルドットエクゼ!と名乗り刀を振り回して悪人プログラムをやっつける忍者ソフトの図が浮かんで来た。

レジーが僕にお構いなしに続ける。


「それで、通信経路の通信ノードから、過去のデータログを集めてアクセス経路情報を調べて解析をしたのよ。

そうしたら、前に振り込め詐欺を捕まえた時に、詐欺グループが使っていたデータとの関係性が見つかったの」


「そうかレジー、どこかに隠れて個人情報データを持っている悪の名簿屋組織だな。その方法で顔認証データを手に入れる訳だ。それでレジー、その組織について何か推論できたのかい」


「データの経路は80%以上の確率でセキュアブラッドと言う会社の本社を示しているわ。 

ここはシステムセキュリティの専門会社でVOXから依頼されて私たちの事も調査している。

会社内部はセキュリティ会社だけあって外部ネットワークからは何も見えないわ。

ビルの管理も独自システムでラズベリーAIインタフェースは使われていない」

「セキュアブラッド社の内部を調べる方法はあるのかい?レジー」

レジーが怒りモードで言う。


「もちろんあるわよ。

私のファンのデータを悪いことに使うなんて!あなたもそう思うでしょ。

でもこの調査はシュン君にも協力してもらわないと!」


「僕に出来る範囲であれば・・」

 (と言ったもののなにかやっかいで危険な事に巻き込まれ感99パーセント)

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