第13話バーチャルアイドルに楽屋は必要?

振り込め詐欺の一件の後、今日はレジーにどうしても来て、と誘われた。

大型新人バーチャルアイドル 「エル・ベリー デビュー全国ツアー」の市民ホールでの開催日。

市民ホール前は大盛況。チケットが手に入らなかった人は譲ってくださいと書いた大きな紙を掲げて、誰かが心ならずも余ったチケットを譲ってくれないかと立っている。

一般入場者はスマホをかざして入場口を通るのだが、僕はレジーに言われた通りにオタ芸の最終調整を行っているファングループの横を抜けて裏に回る。

関係者入場口、ここは警備員の前で入退システムにスマホをかざし通り抜ける。

目指すは指示されたエル・ベリーの楽屋。 

おっ、(エル・ベリーさん江)と書いたノレンが下がっている。


バーチャルアイドルに楽屋?必要なのか?

(エル・ベリーさん江)のれんをくぐって楽屋に入ると、部屋備え付けの100インチスクリーンに後ろを向いて座っているレジーが映っていた。

シュン君、メイク中だからちょっと待っていてねと言う。

「レジーあの入り口のノレンは何だ?」

「ファンの方から頂いたの」

そのファンの人はバーチャルアイドルに専用の楽屋があることを知っていたのだろうか。

スクリーンに「お待たせ」と座った姿勢でこっちを向いたレジーが何故か着物姿、頭にはカツラ用のネット、本当に楽屋の歌舞伎役者さんのようだ。

顔は白塗りのレジー。

「はあい、本日の公演は衣装が和装なのよ」

「レジー、きみの映像はコンピュータグラフィックで、メイクも衣装も一瞬で変えられるのに。こんな手順は必要なのかい? 何というか見ている人の気分は出るだろうけど」

「必要よ。バーチャルだけど私は実在しているもの。

ここまでこだわっているからこその人気よ。バーチャルアイドルだけど歌の練習はやるし、メイクもやるのよ」

外からスタッフの声がする 「エルさーん、ご挨拶でーす。 ファンクラブの楽屋訪問にファンクラブイベント懸賞に当選された方がいらっしゃいました」

「はーい、こちらにお通しして。メイクの途中だから、大目にみてねといらしたファンの方にことわってね」

バーチャルアイドルがメイク中の姿でファンと会う、マジか。

「レジー、僕は外に出ているよ」

うしろからは、幸運に当選したファンのどこかで聞いたような気がする昂奮した声が聞こえた。


しばらくしてライブ公演前の楽屋でレジーのエル・ベリーと話すことの出来た幸運なファンが面会を終わって出て来た。

どこかで見たようなカメラ小僧三人組の高校生男子、大中小。

僕と男子3人はお互いを見て、「あっ」と言った。

この前のユニバーサルスタジオジャパンで会った修学旅行のカメラ小僧三人組だ。

三人のうち、一番背の高い男子が話す

「あの時はどうも。やっぱりエル・ベリーのフィールドテストをやっていた関係者の方だったんですね。」

「まあそのような感じです」と僕はもごもご言う。

「僕たちはネコネコステージ登場からのエルのファンなんです。仲間には青い三連星と呼ばれています」

(青い三連星!それはまた)

彼らが話すにはなんでも何とかアタックというカメラ撮影の技を持っていて、三人の身長差を生かし、一人は下から、一人は目線、一人は上からのアングルで一瞬でアイドルを撮影する技術?を持っているそうだ。

「でも一番好きなエル・ベリーはバーチャルアイドルなのでせっかくの僕らの撮影ワザが生かせないのですよ」

それはそうだろう。

「そろそろ開演なので席に行きます」

見送る僕に横に浮かぶレジーターミナルが話す

「ね、彼らが私の事を話すときはコンピュータで作ったグラフイックスじゃなくて、人間のアイドルと一緒でしょ。だから私も実在の人間になるだけ近づけるようにしているの。ディズニーランドのミッキーが中に人が入っている着ぐるみだなんて感じさせないのと同じ事よ。ね、今日は新しいカバー曲を歌うから、しっかり聞いていってね」


ライブの後は、握手会。

バーチャルアイドルにどうやって握手と思うが、等身大ホログラムシステムが用意されていて、ダウンロードデータ購入者は付属特典の電子証明でホログラム握手チケットが付いてくるのだ。

(僕もレジーに言われていやいや正規にダウンロードデータを買った)

列に並んでいると、さっきレジーの楽屋で会った青い三連星なる高校生三人組が少し前に並んでいた。

やっと僕の番。

ホログラムで座っているレジー(エル・ベリー)。

システムにいたずらされないよう、人間のガードマンまでいる。

レジーのホログラムの前に立つ。

「はあい、河原さんこの前も来てくれたわね」とレジーがしらっと言う。

僕もしらーっと

「友達が行けなくなって、どうせ買ってくれる人もいないだろうからと僕にくれたチケットで来ました」

レジーが引きつった笑いで、僕を睨みながら言う。

「そう!欲しい人はたくさんいるのに。ところで握手会に来て握手せずに帰るの!」

「せっかくだから少し握手してゆきます」と僕はホログラムのレジーの手を取った。

(あれ) 

ホログラムの手なのに本当に女の子の手の感触がある。


レジーがにっこりする

「驚いたでしょう!実体化じゃないけれどホログラムが生きているように感じるでしょ。初めて私と握手できたわね」

「レジー、いったいどうやって・・」

「人間の脳波に直接働きかけて、錯覚させるの。最新技術で握手会って私らしいでしょ?」


レジーには黙っていたが、華奢で柔らかくて少し冷たい本当の人間の女の子そのものの手で、僕は少し胸がキュンとした。

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