第12話振り込め詐欺を阻止せよ!

いつもの箕輪中央駅前通りのスターバックスコーヒー。

僕はガラス越しに通りの見えるお気に入りのソファに座り、レジーターミナルを横に置いてスタバのファイブスター黒エプロンが自信を持ってオススメとかの新作スパイスコーヒー、「中国4000年の秘密!花椒&八角フレーバー」を試しているところだ。

さすがにこれは頂けない。

コーヒー屋で売っていれば何でもコーヒーと言っていいのかね?

お、気づけばコーヒーとは書いてない。

横のレジーにBluetoothのイヤーマイクロフォンで聞く。

他人には電話で話しているように見えるだろう

「ところでレジー、アイドルの方は忙しくないのかい?」

「とーっても忙しいわよ。CPUビットが電子の限界速度で反転するくらいに。

冷却にジョセフソン素子が欲しいわ」

「でも、ここで僕と暇そうにしているじゃないか」

「まあ、失礼ね。今現在のスケジュールを教えましょうか。

ここにシュンといる私が1号、2号は北海道でライブの開演待ちで調整中、3号0は渋谷のスタジオでレコーディング、4号は新曲の練習ね。」

ボーカロイドが歌の練習とは!

「レジー、その練習ってなんだ。

ボーカロイドがロボットかなんかの先生についてレッスンを受けるのか」

 時代はそこまで進んでいたか・・・

「練習はバンドの人間のメンバーとやるのよ。

エルはより暖かいサウンドを出す為に、バックバンドは人間でしょ。

こっちも音合わせやらなんやら必要な訳。

なにしろ音楽を聞くのは生きたヒトだからね」

「それで4人、エルはいったい何号まであるんだ」

「ボイスデータだけのものは別にして、AIインタフェースでキャラ設定をコントロールしているのは4体かな。

でも来週からはAIインタフェースの排他処理でディズニーランドのミッキーみたいにリアルタイムに出現するのは常に1体だけにするつもり。

いつでも都合のつく安い女と思われたくないからね」


「中国4000年の秘密!花椒&八角フレーバー」の香りについて、レジーにコーヒーの定義を聞こうとした時、ガラス仕切りから店の外、通りのベンチに座った身なりの良い老婦人が慣れないと見えるイヤースピーカーを付けて、新型のスマホ相手に四苦八苦しているのが見えた。

レジーが言った。

「ねえ、あの人の会話をモニターしたんだけど、あれって振り込め詐欺みたい。ちょっと調べてみるわね」レジーが二秒後に調査結果を話す。


「会話している相手の情報は怪しげだわね。

画像は無くて声だけ。

会話記録では、実在のお孫さんの名前を使って大金を送らせようとしていてる、電話の向こうに警察官と称する人物がお孫さんの傍にいて、送金操作を指示しているけどご婦人はスマホの送金操作に慣れないせいかよくわからないようね。

警察官の名乗った名前と所属は登録がある実在の人物よ」


僕は店を出てまだ必死になってスマホ操作をしている老婦人の前に立った。

「あの、お困りのようですがどうしました?」

「孫娘の一大事で、大至急お金を送らなければいけないのですがスマホの操作がうまく出来なくて」

「失礼ですが、相手がお孫さんというのは確かですか?」

「はい、長く会ってはいませんが声も孫の声でしたし、警察の広告で言われた通り、母親の誕生日や亡くなった私の主人の名前も聞いたのですが全部正確に知っていました。間違いなく孫です。孫娘は良く出来ていて、私に振り込め詐欺ではない事を証明するのに、近くの警察署に行って警察官の方に横に立ち会って頂いてから私に電話してきました」

(それは確実に振り込め詐欺だろーと思う)


「レジー、発信元は特定出来たか」

「はあぃ、出来ましたあ。相手の電話している現場近くに地域の監視カメラドローンが到着してまあす。ドローンのカメラ映像をシュン君のスマホに送りますね」

スマホのディスプレイに映ったのは雑居のビルのような建物。

「発信元の12階に人物3人の赤外線反応あり。

待って、この場所でAIインタフェースの自然音声合成装置を使っているわ。お孫さんの声はこれね」

「これは振込詐欺です。犯人は娘さんの声を機械で合成しています」と僕はご婦人に話した。

「そんな事が」 老婦人が絶句する。

「僕に代わって下さい」

「もしもし、今どちらから電話されていますか?」

「お前は誰だ!電話しているのは警察署からだ、城東警察署。妨害すると公務執行妨害でお前を逮捕するぞ! 早く山野さんのお婆さんと代われ」

「そうですか、城東警察署ですか」


(レジー今だ) 電話の向こうで「え」と声が上がる。

「聞こえますか警察官さん。今、城東警察署と言われた場所の照明が全て消えましたね」

「おまえ、一体誰だ」電話の声がうろたえ気味だ。

「話してるあなたも良く見えていますよ。今時の警察は派手なシャツ来てますね。隣の女性の方はお孫さんとしてはお年のようですが、お孫さんのお母さんですか?」

現場のカメラドローンが送ってくるリアルタイム映像に、照明の消えた雑居ビルで窓から不安そうにあたりを見回す男女が映る。

「何なんだ、お前は!」 電話が切れた。


「山野さんとおっしゃるんですか。これは手の込んだ振り込め詐欺です。

犯人は標的である山野さんの周囲の情報と娘さんの声紋を含む個人データを手に入れて音声を合成して電話してきました」

「そんな事が・」山野さんは騙されていたと知って大変ショックを受けたようだ。

「レジー、本物の難波署の警察官はどのくらいでビルに到着する?」

「あと二分です。12階の電気鍵をロックしました。

エレベーターは停止、彼らの車はイモビライザー照合用システムのAIインタフェースをコントロールして走行モーターが作動しないようにします。

ついでに特定したデータを警察の照合システム検索インデックスの上位に入れておきますね」。


お礼を言う老婦人に警察に連絡するように伝えて、僕らはその場を去った。先祖代々この箕輪中央あたりの土地を持っていて、定期借地権?とかでこの辺いくつものタワーマンションに土地を貸している資産家ということだ。


「ねえシュン君、私達こんなユニット名はどう?ひみつのAI探偵、レジーとシュン」


僕は別の事を考えていた。

あの振り込め詐欺グループが、ターゲットの家族の声紋や氏名、生年月日に加えて実在の警察官の名前を使っていた事が引っかかる。

どうやったら孫娘の声紋データや、実在の警察官の所属や名前まで手に入れる事が出来たのだろうか。

裏社会のネットワークでは騙す標的を絞ったら簡単に手に入るものなのか。


「レジー、さっきの振り込め詐欺なにか変だ。あのターゲットになったお金持ちの老婦人について正確な情報が揃いすぎているのが気になる。

どこかで組織的に個人情報を集めていて、犯行グループに情報を提供したやつがいるんじゃないか」

「グループの一人のスマホにご婦人のデータがあったので解析したのだけど出所に関しては不明。項目属性からすると、大元は巨大なデータベースから抜かれたようね」

「振り込め詐欺の犯行グループが使う巨大な個人情報のデータベース?なんかもっと大掛かりにとんでもない事が起きそうな予感がするよ」

アニメ声レジー

「そうね私もよ・・と言いたいとこだけど、さすがに予感とか勘を感じる能力はIには無いのよね。

ひみつのAI探偵のノリで、もう少し広範囲に探索して推論してみるわ」


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