かりやのまお

上庄主馬

序章

 小豆色の空に、風花が舞っていた。


 空気がやけに冷たい。この分だと夜半には、本格的に雪が降り出すだろう。

 彼女はコートの前をかきあわせ、小さく身震いした。視界の片隅に、町の灯りが微かに滲む。彼女は神社に続く山道を、何かに憑かれたように足早に登っていた。

「急がなければ」

 喘ぎに呟きが混じる。

 刻限は迫っていた。急がなければ、間に合わない。どうしようもない焦りが、彼女を追い立てる。

 旧暦一月十五日。今年に入って初めての満月。初望月の日は、成人の祭りが行われる。それまでに、そのときまでにこの土地を出なければ。


 この、呪われた土地、――狩谷を。


「もうすぐよ、もうすぐ」

 己を励ましつつ、更に足を早める。この真火まおの奥宮さえ越えてしまえば、もう怖いものはない。それにこの石段を登り詰めれば、そこにあの人が待っている。そう思うと、自然、足も早まった。

 まわりで、木々がざわめいている。風が出てきたのか。恐怖と期待を纏いながら、彼女は奥宮の鳥居を潜り抜けた。



 神社の一隅の大杉に、若い男女の遺体が釘で打ち付けられているのが発見されたのは、その翌朝のことだった。

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