勇者学校-VALIENTE-

細司聖実

第1話真ん中誕生日

「おやすみ」


 そう言って子供達、礼二れいじと三葉みづはがリビングを出て階段を駆け上がっていく足音を父親、宇江佐象一うえざしょういちは聞いていた。


 ふと思い当たり、明日は早いから早く寝るようにと声をかけるが返事はない。


 聞こえているのかと少し声を荒げると一拍おいて返事が返ってきた。その声からは不服の感情がありありと聞いてとれた。


 素直に言うことを聞けないのかと思う反面、こんな口煩い親父に思春期の子供たちが反抗せずにいられるとも思えない。


 もっと上手いやり方というものもあるのだろうが、思いつかない。思いついたとしても大抵は後の祭りである。


 タイムマシンでもあれば四、五年前の自分に言って聞かせる事も出来るのに、などと益体も無い事を考えているとキッチンにいる妻、美雲みうから


「ぼーっとしてるんだったら片付け手伝ってよ」


 と言われてしまった。


 やれやれとソファから腰を上げ、象一はテーブルの上のローストチキンやケーキなどの夕食の残りをタッパーに詰めたり、口に運んだりしながら片付けていく。




 今日は子供達二人の誕生会だった。


 毎年四月八日に行われる誕生会は礼二と三葉どちらの誕生日でも無い。


 礼二と三葉は年子で学年も一緒、仲が良く、ある意味双子のように育ってきた二人はどちらか片方だけが祝われない日というのが嫌だったらしい。


 宇江佐家ではもう十年以上子供達の提案である真ん中誕生日を祝っていた。


 今回で礼二は十六歳、三葉は十五歳になる。




 象一は残り物を詰め終わったタッパーを冷蔵庫に入れながら美雲に語りかける。


「二人とももう高校生になるとは、子供の成長は早いもんだな」


 予洗いした食器を食洗機に並べながら美雲が答える。


「本当にそうよね。この前小学校を卒業したと思ってたのに、この分だと高校三年間もあっという間に過ぎ去っていくんだわ」


「そしたら大学、成人、また卒業して就職。それでようやく子育て終了か」


「でも二人とも大学にいく気あるのかしら。三葉は勉強しないで遊んでばっかりだし、お兄ちゃんも三葉と同じ所受けるって言って、あの寺工についていっちゃうし。三葉は卒業すら怪しいわよ?」


 そう言って美雲は少し強めに食洗機を閉じる。


「まあ、そんなに心配するなよ。礼二が一緒にいれば三葉も卒業ぐらいはできるだろうさ。礼二はあの歳にしてはしっかりしているし、三葉も頭が悪いわけじゃない」


「あの子の場合はその頭の使い方がおかしいのよ」


「ふふ、確かにそうだ。でも、あの子達には無限の未来が広がっているんだ、若いうちくらい好きにさせてやろうじゃないか。何事も経験。それに大学進学だけが将来じゃないだろ?」


「そうだけど、お兄ちゃんは成績も良かったんだし、三葉の事が無ければちゃんとした学校に行ってたと思うのよね」


「どうだろう、あいつはあいつで三葉の目付け役に甘んじてる所があるからな。自分が本当にやりたいことを見つけられればいいんだが……。ま、それに三葉を野放しには出来ないって考えももっともだしな」


 そう、宇江佐家の長女は問題児であった。苦笑しながら象一は三葉のこれまでの奇行を思い出す。

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