again
才野 泣人
第1話
リセマラ、という言葉をご存知だろうか。
正式にはリセットマラソンというその言葉は、スマートフォンゲームのチュートリアルの段階において当たりのキャラが出るまでアプリのインストールとアンインストールを繰り返すことを言う。 つまりは、レアが当たるまで何度もゲームをやり直すことが出来るのだ。
では人生はどうだろうか。"リセマラ"と同じように何度でもやり直しが出来るのだろうか。当たり前ながらその答えは分からない。実際に生まれ変わりを証明できる人がいないからだ。あの偉大なゴーダマ・シッダールタは輪廻転生を、イエス・キリストは復活をしたという伝えがあるが、現代社会ではにわかに信じがたい現象である。
さて、ここに1人の少年がいる。この少年は守るべきものがなく、愛すべき人がいなかった。端的に言えば生きてる理由がなかった。少年にとって世界は恐ろしく退屈で、つまらないものだった。
だから少年は世界をリセットすることにした。こんなつまらない世界ではなく、もっと当たりの世界を引くために。
「昨日未明、私立×××高校2年の男子生徒(17)が学校の校舎から飛び降り、自殺したと県の教育委員会が発表しました。委員会は、学校内にいじめはなかったと報告しています」
_ _ _ _ _
そこを言い表すには「地獄」という言葉が最適だった。紅黒い炎がごうごうとうねりを上げて燃え盛り、おそらくは閻魔大王と思われる人物が中央に堂々と腰かけていた。
「えーーっと、お前の死因は.......自殺ぅ?こりゃあなんでまた自殺なんかしたんだ?いじめにでもあったのか?」
見た目に反して軽い口調で閻魔が問いかける。
「退屈だったから」
それに対し少年はつまらなさそうに答える。
「つまらない?世界がか?」
「そう。面白くなかったんだ。僕はレアキャラを引きそびれた。だから終わらせたんだ。悪くないだろう?」
少年の返答に対して閻魔は困ったような顔をした。
「人生に退屈して自殺ねえ。そんな理由じゃあの世には連れていけんなあ」
「あの世?ここはあの世じゃないのか?」
それまで死んだ色をしていた少年の目に少し興味の色が宿る。
「ここは生と死の境目であって、まだあの世ではない。ここでは死んだ人をあの世に連れていくかどうか決める。そしてその判断を下すのがこのわしだ」
「なるほどね。つまり、天国か地獄か決められる前にまずここであの世に行けるかどうかを決められるわけか」
「そういうことだ」
「つまり君は閻魔様の前身みたいなものと」
「まあ、そうなるな」
納得、というように少年が頷く。
「それで、僕はあの世にすら行けないわけか」
「そういうことだ」
「じゃ、あの世にすらいけなかった僕はこれからどうすればいい?」
少年の口調は明らかに先ほどまでとは違い、生き生きとしていた。
「もう1度初めから人生をやり直してもらう。ま、要するに生まれ変わりだな」
そう聞いた途端、少年の顔が名案を思い付いた悪ガキのように明るくなる。
「生まれ変わり.......いいね。今度は面白い世界に転生させてくれよ」
「そりゃあお前さんの努力次第だ。まあ、なんにせよつまらないからと言ってまた自殺すんなよ?」
「それはどうかなぁ」
少年は初めて顔に笑みを浮かべた。
「全く生意気なガキだなあ。ほれ、早く行った行った。このわしの後ろの扉をくぐればまた新しい人生の始まりだぞ」
「あ、ちょっと待った。前世の記憶ってどうなるんだ?引き継がれるのか?」
「一応引き継がれることにはなってるが.........」
どこか言いよどむ閻魔。
「いや、それさえ分かればいい」
そんな閻魔の様子を気にもせず少年は門の方へ歩いていく。
「そうか。じゃあ元気でな」
閻魔の言葉に少年は何も答えない。ただ、顔にはさっきのような笑みはなく、真面目な顔に変わっていた。
「人は何のために生きるのだろうなあ、少年よ」
その閻魔のぼやきが少年に届いたかどうかも分からない。
ただ、門をくぐるその瞬間に少年の口角が少し上がったような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます