第17.5話 ナウサンタ仕事の日

(しまった!二人に欲しいもの聞いてない!)


 戸田井 奈羽は焦っていた。今日はクリスマスイブである。ナウサンタとして、トキとツチノコにプレゼントを届けなければならない。


「えーと、えーと・・・」


 いつもは、事前に欲しいものを聞き、家に忍び込んで置いてくる・・・というのがナウサンタの犯行(?)手口なのだが、今年は何が欲しいか聞くのをすっかり忘れていたのだ。


「そうだ!電話!」


 先日引っ越した時、二人は固定電話を購入したのだ。それで聞き、急いで買いに行けばいいだけの話。なんら問題はない。


 プルルルル・・・プルルルル・・・


 思い立つなり、携帯から電話をかける。


 三分後・・・


 プルルルル・・・プルルルル・・・


(出 な い !)


 それはそうだ、この時二人はパーティに行っている。固定電話に出る人はいない。

 携帯をバックへ突っ込み、次の方法を考える。


(もう靴下が用意されている可能性を考慮して、家を見に行くか・・・!?)


 思い立ったら即行動。もう時間がなかった。





 自転車を飛ばし、トキ&ツチノコ宅にきたナウサンタ。


「おじゃましまーす・・・」


 悪く思いつつ、合鍵で中に入る。真っ直ぐ階段を上がり、二人の寝室へ。さすがに、愛を育むのに最適な部屋へ無断で入るのは気が引けたため、靴下の確認は入口から。


(・・・ないか)


 靴下はない。諦めて建物を出る。


(夜、二人が寝てから来て・・・確認して、なんとかするか・・・)


 本格的にまずいことになってきた。





 夜。ナウサンタはトキノコ宅前で立ちすくんでいた。


「くそっ・・・」


 例年通りなら、部屋の明かりが消えたのを見計らって合鍵で入ればよかった。しかし、今年からは恋人が二人で同棲する愛の巣へ踏み入らなくてはならない。


(それも・・・性夜に!)


 二人は起きている可能性大である。それも、ただ起きているならまだしも、エッチしている所に遭遇する可能性が高いわけだ。ナウサンタにもできないことだ。


「でもどの部屋も電気はついてない・・・これ、どうだ?」


 起きてるのか?寝てるのか?

 時刻は十時半・・・いや、普通に起きてる時間帯である。しかし、それでいて明かりがない。さらに、ナウは昔からトキにこう言っていた。


『クリスマスの日は早く寝ないとサンタさん来てくれないよ?』


(フム・・・これは寝てそうでは?)


 意を決して、合鍵を刺しこみ、回す。ゆっくり回したため、「かしゃん・・・」と優しく音が鳴った。微かな音だ。


 無言で侵入。そろりそろりと階段を登る。そして、寝室のドアの前へ。


(・・・)


 防音性能は、家の中ではあまり良くないらしい。ナウサンタは心臓をドクドク鳴らしながら階段を降り、外に出る。


「もー、イチャイチャしやがって」


 ナウサンタ、変な気分。





「くそう・・・リターンズだ」


 午後三時。流石に寝たろうと思い、同じように侵入。


(・・・寝てるな)


 寝室のドアに耳を押し当てても、音はひとつも聞こえない。ゆっくりドアを開け、中に入る。


(やっぱり、寝てるね)


 事後感漂う室内から逃げ出したくなりつつ、ナウはサンタとして靴下の中を確認する。


(トキちゃんは歌ウマ本ね、例年通り・・・もう予想して買ってあるのさ)


 自らラッピングした本だけ、まず靴下の横に置いておく。トキの頼むプレゼントは毎回同じなので、ナウはあらかじめ用意しておいたのだ。そして、見事的中というわけである。


(ツチノコちゃんは・・・おいおい、難しいなぁ?)


 ツチノコの紙には『恋人をメロメロにさせるアイテム』の文字。手持ちには特にいいものは無い、コンビニ等で買ってくるしかないかもしれない。


 しかし、荷物をガサゴソやっていてとあるものを見つけた。自分でラッピングした道具がそのままだった。リボンが一巻、二巻入っている。


(これだ!)


 それを両方、靴下にねじ込む。そして、使い方をメモ用紙に書いてそれも入れる。


 そろりそろりと部屋を出て、家を後にする。


「ミッションコンプリート!」


 嬉しくて、深夜三時に声を張ってしまった。近所迷惑かもしれないと、後から後悔する。


 以上、ナウサンタのお話。















 ぱち。


 寝室で目を覚ましたのはツチノコ。ナウが出ていってすぐの事だった。


(サンタクロース、どんな人なんだろ・・・)


 彼女は寝たフリをして、サンタが現れるのを待っていたのだ。しかし、サンタの顔は見ていない。見てはいけない気がしたのだ。ピット器官で見てみたが輪郭だけじゃなんの情報にもならない。ただ、女の人っぽかった。


 トキが自分の腕に抱きついて寝ているので、もう片方の手を伸ばして靴下をとる。中に入っていたのはリボンが二巻とメモ。


(なになに・・・? 『これを体に巻きつけて「私がプレゼント」って言えばOK』か)

(いや何これ恥ずかしいな!?)


 ドキドキしながら、ツチノコも寝に着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る