消えない約束

@NA_LEAF

第1話 限界

 「すみません、すみません...」

 またミスをしてしまった。いったいこれで何回失敗をして上司に同じような謝罪を繰り返しているのだろう。

 キリのない罵声、キリのない上司の怒り、いつになったら幸せが訪れるんだろう、いつまで俺は頑張り続けなければいけないのだろうか。

 そう頭の中で繰り返し上司の怒りを浴びながら俺は頭の中でずっと考えていた。

 やっとのことで上司の怒りが収まり、自分のディスクに座ると同時にとても重たい安堵が俺にのしかかってくる。

一息をつき周りを見ると定時をすぎた同僚や上司が次々と退社して行く。一部の人は俺をあざ笑うかのように見て扉の先へ歩いて行くのを見える。上司からだけではなく、同僚や後輩からも笑われ邪魔な存在なのだ。

この薄暗いオフィスで仕事をするのはなぜか落ち着いてしまう。ゆっくりと自分の空間で残業を終わらせ会社を退社しようとするといつもの場所であいつがあくびをしながら待ち構えていた。

 「いや~ほんっとお前は懲りないね~」

 俺に気づくとあいつは近づいて来て、いつもの軽いテンションで声をかけて来た。

 待ってもらう必要もなく、正直邪魔に思える。だがあいつは毎日、同じ場所で同じ待ち方で何年もつづけているのだ 。

 「俺はただ約束を果たすために頑張ってるだけだよ。」

 「いっつも同じこと言ってるけど、お前はそれで満足してるのか?、いい加減自分と向き合えよ」

 またいつも通りの説教か。流石に毎日同じことを繰り返すとなると流石に腹が立ってくる。いい加減俺の苦労をわかってほしいものだ。

 「いったいなにを向き合えばいいんだ?まず向き合うものなんてないだろ」

 「はぁ、やめやめ。明日早いんだろもう帰って寝ろ」

 「言われなくても帰るよ!」

 何なんだよあいつは急に意味の分からないことい言い出して帰れとか、ほんと昔と一緒でなにも変わってない。

いつもめちゃくちゃなことを言う。あいつが毎日、言う言葉はそれほど大事なことなのか、正直、どうでもいいように思える俺のことは俺が一番わかっている。向き合うものは俺にはない。

 あいつの言葉を考えながら車が全く通らず街灯が一本程度しかない道を歩くのは寂しく感じる。

もう暖かい春だというのに風が肌寒く、冬の道を歩いているようだ。

 「ただいま」

 日課のようにもう誰もいないはずの部屋に毎日、ただいまを言う。

 気が緩んだかのようにソファーに倒れこみあいつが言っていた言葉を繰り返し考えてみた。

 自分と向き合う、俺に自分を決める権利なんてない。俺は約束のためだけに生きている。俺は向き合う必要なんてないんだ。

 目をつむり、今日起きた出来事を考え込んでいた。そして、体がだんだん軽くなり不思議な感覚に浸っていった。

 不思議な感覚がなくなり、目を開けて見ると、暗いはずの部屋が明るくなっていた。ベランダに様子を見に行くと太陽が上っており、気持ちいほどの快晴だった。

 そうか、俺はあのまま寝てしまったのか、今何時だろう。早く会社に行く準備をしないといけない。

そう思った瞬間ある言葉が思い浮かんだ。

 あれ、俺はなんのために頑張っているんだっけ、なんで会社に行く必要があるんだ。いつからこうしているんだ。

 疲れているせいなのか、何故だかわからないが全てが闇に感じる。頑張っている理由が全く思いつかない。

 それよりも会社に行かなければならない。だが、このまま行ってもダメな気がする。会社にいける気が一切しない。

勿体無いが有休を取るしかないか・・・

 「はい、すみません。ありがとうございます。」

 特に何も言われず有休を取ることができた。

 肩を撫で下ろすと体が少し軽くなった。部屋を改めて見渡すとリビングにはソファーと机しかない。自分の過去を見返すと何をしていたのか記憶がない。

考えながら部屋を見ているとある扉が目に止まった。確かその部屋はベットがあったはずだ。俺はその部屋に入る資格がなく、入る必要性がない。約束を守るまで俺はまだ行かない。

 「俺ってなんだっけ、約束ってなんだっけ」

 俺は・・・いったいなんのために・・・


 ピピピ・・・ピピピ・・・

  

 急に机の上に置いてあったスマホが鳴り出し、見てみるとあいつから電話が来ていた。

 あまり気が進まなかったが電話に出てみることにした。

 「おはよう!どうだ一緒に会社に向かわないか?」

いつも通りにあいつの声がとても落ち着いてしまう。いつも通りのテンション。いつも通りの声のトーン。何故だか心が落ち着く。

どういう気の回しかわからないが会社にはもう有休をとってしまった。

 「すまないな今日は会社を休むことにしたんだ。」

 「まじでか、まぁしょうがないな、今日はゆっくり休みな、あとお見舞いに行ってやるぞ。」 

 少々お節介と思ってしまったが何故だかあいつに来てもらいたい。なんでもいいから知っている顔を見たい。

 「あぁ、ありがと」

 気が抜けた声で俺は返事をすると通話を終了し当たり前かのようにソファーへ寝転んだ。

 またあいつの言葉が頭の中を回っている。俺はあいつに頑張っている理由は約束と答えた。

 「あの約束・・・」

 この約束には終わりがあるんだっけ、約束の内容はなんだっけ。一体誰との約束なんだっけ。

 あれ・・・俺ってどうやって今まで生きてきたんだっけ。

 「さみしいよ」

 ポツリと細く弱々しい声が漏れてしまった。

 いつになったら会えるのかな、いつになったら約束はなくなるの?

俺は今までどうしてきたんだっけ。

約束は何故、俺のことを鎖かのように縛るのだ?

誰か・・・俺のことを・・・・・・・・

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