いつか殺されるその日まで

森坂 輝

プロローグ

運命なんて言葉、信じていなかった。

だけど、私はきっとこれを運命と呼んでしまう。


「……きれい」


 ただ、美しかった。抱いた最初の感想はそれだった。

 舞い散る赤も、耳を劈く声も、その全てが幻想的で快楽的で。


「………………」


 あぁ……きっと私はこの為に生まれてきた。

 震えは止まらない。とてつもない歓喜が私の身体を揺らしていく。

 生まれてくることが、生きることが、罰だとでも言うのなら。


「……」


 彼はそれを許してくれるのだろう。何物にも代え難い、その許されざる行為で。

 まるで舞台でダンスでも踊るかのような、鮮やかで繊細なその動き。

 その舞踏に喝采を送るのは私しかいない。私の為の、彼の独壇場。


「子供……か」


 一瞥するその目はあまりにも冷たくて。それだけで私の心は溶けていく。

 そして彼は私の前から姿を消した。もう動かなくなった二つのモノだけ残して。


「……あはは。あははははははははは‼」


 笑いが際限なく溢れ出る。埋まった心の隙間から漏れ出した音に違いない。

 運命なんて言葉、信じていなかった。無いものだと思っていたから。

 私は最高に運が悪くて、最高に運が良いのでしょう。

 あぁ、なんと素晴らしきか運命の扉。開けた先にはきっと救いがあるのだから。

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