影を落とす

めがふろ

影を落とす

小の君は知りません。


どんな子だったのでしょう。


きっと数人の友達に囲まれて無垢な笑顔を輝かせていたのでしょう。




中の君と話したことはあまりありません。


大きな眼鏡と周囲と変わらない髪型。


何の部活をしていたかすら記憶にありません。




高の君は輝いていました。


道端に咲く花のように、あなたの存在に惹きつけられ


知らず知らずのうちに視線は釘付けでした。




大になって君と話すようになりました。


くだらない僕の話にも笑ってくれる君のことを思うと今でも胸が締め付けられます。


2人で行った山奥の旅館。


まるでこの世に2人だけのようでした。




誕生日にあげた財布は今でも使ってくれていますか?


僕が教えた音楽は今でも聴いていますか?


聴くのだとしたら、僕のことも、少しでも思い出してくれると嬉しいです。




人混みの苦手な僕は旅行先の遊園地で機嫌が悪くなったりしましたね。


思い出すだけで苦笑いが込み上げます。


君はというと隠れて翌日の僕の誕生日サプライズを予約していましたね。


嬉しさより先に申し訳なさが込み上げてきてきました。




服に無頓着な僕はお洒落な君に服を選んでもらっていましたね。


今でも変わらず自分で服を選ぶことはありません。


僕のクローゼットの中は君との思い出でいっぱいです。




お揃いで買った腕時計。


いつも同じ靴だからと言ってプレゼントしてくれたスニーカー。


左耳につける銀色のリング。


僕の全身は君に包まれたままです。




別れ話の翌日。


玄関に君に貸していた小説が置かれていました。


中身の手紙を読むと胸が痛みました。


返事は書きませんでした。




今の君はというと、隣には僕でない人がいるのですね。


華奢な僕と違って筋肉質な。


年上というのはとても頼り甲斐がありそうですね。




貴方は僕にとって眩しすぎました。


その眩しさが僕に影を落としました。


僕にはそれが耐えられなかった。




僕と君の人生はもう交わることは無いでしょう。


それでも僕は君の幸せを願い続けます。


たとえ君に恨まれていようとも。


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