Presenty——05
「——? ————?」
女の声が疑問符を重ねる。
しかし、覚えのない言語だ。
何を言っているのかを理解することはできず、何より反応を返すだけの余裕もない。
生首……生首が…………。
「
不意に聞き慣れた言語が鼓膜を震わせた。
反射的に言葉を返そうとした口が「あ」と無意味な音を漏らす。
すると、それまでてんでデタラメに喋っていた女が様子を変えた。
「Excuse me? よろしいでしょうか? ————?」
英語。日本語。覚えのない言語…………。
その繰り返し。
しばらくの間は呆然と耳を傾けるばかりだったが、そのうちに
もしかして、通じる言葉を
応えるべきかを悩んだ。
こうして喋っているのだから間違いなく生きている。
生きたまま箱詰めにされて、うちに届けられた女……。
気味が悪いにも程があるだろう。
正気の沙汰とは思えない。
そっと握り締めたままのスマートフォンに視線を向けてみるが、圏外表示は変わらず…………。
家の固定電話を使うか?
箱詰めにされた女の向こう側。
壁際。テレビの横に子機がある。
本体は1階のダイニングだ。
……横を通り抜けるか、この場から離れるか。
女の声が途切れる。
意識をそちらへ戻すとどうやら反応のない明弘に対しアプローチの仕方を変えることにしたようだ。
「私はプレゼンティ。
英語で、日本語で、そう語った。
続けて何語かさえ判断のつかない言語でも、おそらく同じように。
ロボットであるなら、なるほど。
箱詰めにされているのにも納得がいく。
しかし、本物と見間違うほど精巧に作られたヒューマノイドなど…………。
世界の技術はそこまでの進歩を見せていただろうか?
人工知能を搭載したロボットについてはたまにニュースで見かけるけれど、箱型、筒型……人型であっても球状の頭で、皮膚とは呼べないロボットらしい外装をしている。
「ヒューマノイドのご利用は初めてでしょうか? ……あまりに精巧な作りであるため戸惑われるお客様も多く……ええ、そう珍しいことではありません」
まずはどうぞマニュアルをご覧になってください。
女の言葉に呼応するようにして箱の側面——パネルの下に光が走り、幅10センチ高さ6センチ程度の口が開かれる。
そこから伸ばされた鉄製の四角い舌の上。
転がる楕円形の平べったい何かがマニュアル——の、データが収められた端末だろう。
…………正直に言って信じがたい。
だが、生身の女が箱に詰められているよりは、ヒューマノイドであってくれた方が幾分もマシだ。
多分。おそらく。
真偽を確かめてからでも遅くはない、か……?
今一度、テレビ横の子機に視線を向ける。
……これが父の購入したものであるなら逆に警察を頼る訳にはいかない。
明弘は意を決して端末を取りに向かうことにした。
とはいえ生首状態の相手ともう一度目を合わせるのは……現状、遠慮願いたかったので……。
尻餅をついた体勢から立ち上がることはせず、姿勢を低くして這うようにして距離を詰める。
そうして手に取った端末には、しかし、いくつかのボタンが並ぶばかりで…………。
どうやって使えばいいんだ、これ。
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