第81話 相手を殺さずに制圧する方法


 先日参加させていただいた綾束乙さんの創作談義の二次会にて話題になった、「相手を殺さずに制圧する方法」について語ります。


 こういったことは、人によって認識はちがうと思うのでご了承ください。


 まず、相手を殺さずに制圧する。これは私見ですが、日本の武術の専売特許といっても過言ではないでしょう。

 西洋の格闘術、中国武術、いずれも、相手を殺さずに制圧するという部分に重点のおかれた技術は少ないように思います。


 まさに日本の武術は「神武不殺」。いたずらに相手を傷つけたり、命を奪ったりはいたしません。



 では具体例から行きましょうか。みなさんおなじみ合気道!


 合気道では、動画なんかを見ると気づくと思いますが、敵がチョップで攻撃してくるところをその手首をとらえて投げてますね。あれなんでチョップなんでしょう。


 答えは簡単。敵が手にナイフみたいな武器を持っているという想定なんです。刃物で切り付けてくる相手の手首を捉えて投げ飛ばす。手だと、そこ刃物だから斬られちゃうということですね。


 だから合気道では、敵が手首を掴んでくることも多いです。つまり、手にナイフを持っているから、手首を掴むわけです。変なところ掴むと、掴んだ手が斬られちゃうから。


 さて、敵を制圧する方法です。


 合気道を例に見ましょう。


 二つあります。


 投げ技と関節技です。


 みなさん、投げ技ってどう思います? 柔道でおなじみですね。

 まずは投げ技から解説しましょう。


 最初に質問です。


 もしあなたが何の武器も持っていないとして、さらに敵はあなたより遥かに体格の優れた大男、そしてあなたは、彼を殺さねばならない。そんな場合、どうすればいいでしょうか? 素手で敵を殺す。これってかなり難しいことなのです。


 空手の達人でも、殴って殺すのは難しいと思います。素手で殺そうとすれば、首を絞めるしかないのですが、相手の方が力が強かったら……。しかも、首を絞めて殺すには案外時間がかかります。とてもとても、一撃というわけにはいきません。


 この問題に対する、むかしの日本の侍の解答はこうでした。


 いつも身近に有る、ある物を武器にする。


 いつも、どこにでもあり、とても破壊力ある武器。人間の素手なんかよりも遥かに巨大で強力で、しかもいつもそこにある武器です。



 そうです。地球です。日本の侍は、地球、すなわち地面を武器にすることを考えました。


 敵を殴り殺すのは難しい。だが、崩して投げて、地面へ叩きつければ……。

 そうです。本来の投げ技は、受け身が取れない状態で、地面、ええ畳じゃないです、コンクリートとか岩場と階段とかへ、頭から叩きつけて殺す技術でした。


 素手で、しかも力のない女子でも可能で、しかも一撃で相手の命を奪える技術。それが投げ技です。

 そしてこの投げ技、特筆すべきは、技術があれば手加減が可能なのです。


 ナイフでさして、殺さないよう手加減できるでしょうか? 外科医でも難しいでしょう。


 が、投げ技は、地面に当たる角度や部位、その勢いをコントロールして、死なない程度にダメージを与えることが可能です。

 頭から落とせば死ぬ投げ技も、肩から落とせば戦闘力を奪えます。

 腕をねじった状態で、地面に胸から叩きつけられれば、大抵の人間がそこから反撃は出来ません。しかも、死んだり、回復不能の怪我を負ったりもしません。


 これが、相手を殺さずに制圧するひとつめの方法。投げてダメージを与えるです。



 次です。


 関節技です。


 関節技というと、みなさん、腕なんかを後ろにねじり上げて「いてててて」となる凄い残酷な技ばかり想像するかもしれません。


 が、ぼくは警視庁で合気道を教えていた先生の関節技を喰らったことがありますが、まったく痛くないんです。


 手首を掴まれ、いえ逆にこちらが先生の手首を掴んでも同じなんですが、とにかく肌が触れた状態で、先生がすっと動くと、その瞬間ぼくの身体は崩れました。


 まったく痛くないです。え?と思った瞬間、立っていられなくなります。正確には、立っていられなくなるんですが、立っているんです。そしてそのまま、立っていようと頑張って、動けなくなります。そこから、ぐっとやられると、転がります。そのまま地面に押し付けられます。


 痛くて押し付けられるのではないです。なんか、自分の身体が「折りたたみコンテナ」みたいになって、くしゃりと潰れていくんです。そのまま、地面に這いつくばります。ただし、どこも痛くないです。


 痛い関節技は、低級の技だと聞いたことがあります。

 高度な関節技は、痛くなくて、そのまま身体が崩れて(バランスが、じゃないです)どうにもならず、這いつくばってしまいます。そしてこれ、剣術同士の斬り合いでも出来ます。つまり、接触していれば、掴んでなくても効くということです。



 さらに、もう一歩進めましょう。


 日本の剣術には、こんな言葉があります。


 「無刀取り」。


 これは刀を持った相手に素手で挑み、斬られることなく相手を制圧する技術です。


 冨田流や柳生新陰流の秘術です。


 冨田流のそれがどんなものかは、すでにわかりません。が、新陰流は伝承されています。


 これに関して柳生但馬守宗矩は、「無刀取りは、無理して敵の刀を奪う技にはあらず。奪われまいとする刀を敢えて奪わないのも無刀取りである。斬られなければ勝ちと思え」と喝破しています。


 無手にて敵に挑み、相手も自分も殺さない。これぞ究極の武術です。



 相手を殺さず制圧するのは高い技術が必要です。そんじょそこらの武術家には難しいです。


 といってもなかなかイメージ湧かないという方にお勧めは、YouTubeの動画で以下の単語を検索してください。


 「初見良昭」


 戸隠流忍術の宗家です。忍者ですね。『世界忍者戦ジライヤ』にも出演されてましたが、ガチの武術家です。動画でもし、髪が紫だったら、最近の動画です。

 もう九十歳ちかいですが、現役です。そしてこの初見先生の技が、殺さずに敵を制圧するという武術です。


 どうぞ参考にしてください。




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