第4話 プロットってなんやねん




「これでプロットが書けるぞ!」


 昔、カクヨムでそんなレビューを見まして。なにそれ?と思ってその作品を読みに行きました。

 書かれていたのは、『プロットの書き方』でした。うおぅ。



 で、読んでみるとですね。こまかい数字は忘れましたが、「5万文字くらいの作品なら、1000文字、10万文字の作品なら2000文字。これくらいでプロットを書く」と説明してるんですよー。


「はぁ?」と思いました。


 たとえばですよ。『小説の書き方』って本があったとしますね。内容気になりますよね。で、読んでみたら、こう書いてあったら、どうでしょう?


「まず最初に題名を書く。そしてつぎにあなたの名前(ペンネームで構わない)を書き、1行空けて本文を書く。最後まで書いたら〈了〉とか〈終〉とか入れる。」


 いや、たしかにそれ、書き方だけどさぁ、そーじゃないでしょー!



 ということで、ぼくの意見を言わせてください。


 プロットは「あらすじ」、すなわちお話を簡略化した物ではないと思います。プロットとは、お話の「構造」である、と。

 ま、個人的見解なんですけどね。


 ただしこれ、別に人に見せるものではないので、どんな形態をしていても、それは構わないと思うんですが……。


 たとえば、こういうプロットはどうでしょう?




●朝起きた。


●朝ごはん食べた。


●学校にいった。


●授業が退屈だった。



 こういうプロット、書く必要あるでしょうか?

 べつに書く必要ないと思うんです。


 プロットとは、話の構造です。「面白い構造のお話の枠組み」だと思うんです。


 たとえば、こんなプロットどうでしょう?


●マシンガンやロケット・ランチャーで武装したテロリスト集団が、インテリジェントビルを乗っ取り、ビル内の社員を人質にする。


●テロリストは、通信を遮断し、警察の介入を防ぐ。社長に金庫の解除コードを要求する。従わなければ殺すぞと脅す。


●ところが、このビルには外から入り込んでしまった部外者が潜んでいた。彼は刑事。ただし大して強くない。おまけに裸足だし、武器は拳銃たった一丁だけ。



 映画「ダイ・ハード」の冒頭のプロットです。

 もうこの段階で面白そうです。


 映像で見ると、テロリストたちがお洒落で格好良くて強そうで、対する刑事役のブルース・ウィリスが人は良さそうなんだけど、まったく強そうに見えない。しかも、髪がある!


 面白いお話は、もうプロットの段階で面白いという好例です。




 では、そろそろプロットの作り方の話でもしましょうか。

 よく「起承転結」なんて言いますね。これを意識しろ、とか。

 この「起承転結」というのは、いうなれば先ほど説明した面白いお話の構造であって、朝起きて、学校行って、とかの主人公の行動の話ではないわけです。


 いうなればそれは、「戦略レベルのプロット」の一例なんです。

 戦術レベルだと現場の戦闘になりますが、戦略だと作戦室の戦闘になりますね。「起承転結」は、戦略レベルのプロットのひとつのパターンでしかないです。なので、お話の流れが「起承転結」になっている必要はないでしょう。


 たとえば、こんな戦略プロットはどうでしょう?



●敵が攻めてきていて、人類が滅亡しそう。


●急に呼び出された少年が、巨大ロボットに乗り込んで攻めてきた敵を倒す。


●次々と攻めてる敵をいろんな方法で倒す。


●が、敵の大攻勢が開始され、人類ピンチ。絶体絶命の危機。


●が、敗北の半歩手前で『たったひとつの冴えたやり方』で逆転大勝利。



 これは、『新世紀エヴァンゲリオン』の全話プロットです。正確には企画段階の、です。


 当初の企画では、物語はこういう推移をするはずで、最終回のサブタイトルも『たったひとつの冴えたやり方』でした。これは有名なSF小説の題名です。

 が、この通りには制作できず、最終話のサブタイトルも、別のSF小説の題名に切りかえられます。『世界の中心で愛を叫んだケモノ』でした。

 どっちが面白そうでしょうか?


 で、この戦略的大枠プロット。「巨大ロボットに乗り込んで」の部分を「ヒーローに変身して」にすると、特撮物の全話プロットになります。

 つまり、大枠でこのパターンで作られた話が多いということです。



 もう少し解析しましょう。

 以下はぼくが昔「AG」という作品を書いたときに使ったパターンです。その作品を編集者に見せたらこう言われました。


「うちの編集部は古い体質なので、作品のプロットを『起承転結』にわけるんですが、この作品は『起承転結』にわけられませんでした」


 そうです。「起承転結」ではないんです。ぼくはこれを「返しのついた矢尻型」と呼んでいます。



●冒頭、早い段階で主人公をピンチにする。


●小さい勝利を得る。


●大きなピンチがくる。


●逆転勝利



 このパターンをぼくはハリウッド映画「インディージョーンズ2 魔宮の伝説」から学びました。これは、ほぼだいたいのエンタメ小説で活用できるパターンです。


 解説します。



●冒頭、早い段階で主人公をピンチにする。


※できれば主人公のピンチは1行目ですでに始まっているのが理想です。これは本編のピンチである必要がありません。ここで読者の興味を引きます。


●小さい勝利を得る。


※最初の問題に対する勝利である必要はありません。が、このあとの大きなピンチに繋がる勝利である方がいいです。ここで快感を与えます。勝つ快感です。成功の快感と言い換えてもかまいません。


●大きなピンチがくる。


※物語のほとんどを占めます。クライマックスも含まれます。クライマックスは主人公の最大のピンチであり、人類絶滅の危機です。もしくは、甲子園出場を賭けた試合の9回裏でも構いません。

 ただし、クライマックスには必要な登場人物のすべてが集まるようにしましょう。誤解してならないのは、クライマックスとは主人公最大のピンチであるということです。主人公の勝利ではありません。


●逆転勝利


※ここは説明の必要ないと思います。ただし注意が必要なのは、このあとラストシーンがあり、そこはそこで「物語の結論」というものを提示しないといけないことです。


 ちなみに、ぼくが知る最高の逆転勝利は映画「スティング」です。この映画のシナリオは神懸りです。

 途中の伏線、裏のプロット、戦術プロットと戦略プロットの見事なリンク。あのレベルのプロットを書けと言われても、ちょっと無理なんですが、できれば一度は挑戦してみたいものです。

 未見の方は是非。





 どこで誰が何をしたか、というような戦術レベルでのプロットは、細かく決めなくても、戦闘力の高い書き手なら、現場の判断で勝利を収めることができるでしょう。

 が、こういった大枠の話の骨組み、戦略的なプロットは、作っておいてた方がいいんじゃないでしょうか。


 すこし長くなったので、プロットの話はこれくらいに。

 気が向いたら、こんどはある恋愛物のプロットについて語ります。じつはこの恋愛物、小説を構成する三本の柱、「プロット」、「設定」、「キャラクター」すべてについて秀逸なんです。ヒントは、「は」で始まるコミックです。


 さて、なんでしょう?



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