あがさま

きゅうご

第1話

 あがさま? 藤堂真澄は首を傾げた。

 この日彼女はちょっとした聞き取りをしにその村……集落、だろうか? とにかく小さな無人駅があるだけの、自分の家からも大学からも遠い所に来ていた。見渡す限り畑やら田んぼやらの緑と小さな雑木林と、それから都会に出て行って帰らない人々の空き家。かろうじて人の住んでいる家がポツポツとある集落だ。

「おばあちゃん(といっても真澄の祖母ではない)、あがさまってなに?」

 近所に一軒だけある子供のいる家の若奥さんの愚痴をこぼしていた彼女は渋い顔で振り返った。

「あがさまはあがさまだよォ」

 カンカン照りの軒先で彼女自慢のきゅうりのぬか漬けを噛み締めつつ、茶を啜って真澄は思いついた。民俗学者志望の血がこれだと決めた。夏休みのレポートのテーマ。

「ねえおばあちゃん、それも教えて!」


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