もしもNPCが生きていたら……

あのきき

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 これはとあるRPG。勇者たちが寝静まった後のNPCたちの会話である。


「くっそ、やってられっかぁあああああ!!!!!!」


 とある港町の酒場で、筋肉ムキムキの男が声を上げた。相当酔っているのか声が大きく、顔が赤い。

 忘れたいといわんばかりに酒を口に含み、音を立てて飲み干す。


「くぅうう、うめぇ! なあ兄ちゃん。ちょっとした話に付き合ってくれるか?」


 男は周りを見渡して、一人で飲んでいた若い男に声を掛けた。


「ああ、かまわないが」


 返事を待ってから、男は語り始める。


「俺、船乗りなんだ。それなのに、海に出れねえんだよ。理由……わかるか?」

「……どうしてだ?」


 青年は少し考えてからそう言った。


「俺は船乗りである前に、NPCなんだよ。毎日同じ場所にいて、話しかけられたら同じセリフを言わなくちゃいけない。最悪な気分さ、こんなに広大な海が目の前にあるっていうのに」

「ちなみにセリフを聞いてもいいか?」

「ああ、おもしろいもんじゃねえけどな『ここは海とカジノの港町・セリア。ようこそいらっしゃいました旅のお方よ、楽しんでいってください』だ。くそ長いうえに『いらっしゃいました』で噛みそうになるんだ」


 男は語り続ける。


「それにだ、給料なんてもんは出ない。酒場の主・マリアンヌの人柄からNPCたちは毎日無料で飲めてはいるが、カジノのあるこの町の誘惑はすごい。ましてや娯楽が酒しかないからか、日に日にその気持ちが高まっていく。服全部売り払って一発逆転でも狙おうかとか」

「それはつらいな。……実は今、俺も似たような状況にいるんだ。勇者っているだろ? 俺はそいつの旅に同行している戦士なんだ」


 青年は、迷いながらも男に打ち明けた。


「勇者は最悪だ。毎日朝から夜まで働かされるんだ。それに戦闘になると《めいれいさせろ》とうるさくてな。俺は《ガンガンいこうぜ》を選択してほしいんだが」

「ほうほう、そりゃひでえ話だ」

「それに、レベル上げを損なってボス戦のたびに俺たちは死ぬ。あの感覚はなれないな」

「お前、死んだことあるのかよ!? すげぇな」


 そうこうしているうちに、朝は迎えた。

 男に昨晩の記憶はほとんどない。呂律もほとんど回っていない。

 だが、街には陽気な音楽が流れ、朝日が目を射す。


「はああ、まあいつも通り、声掛けられることもないか」


 あくびをしながら定位置についた。


「……あの」


 男の背筋が凍った。

 この声は……耳に残るこの声は――勇者。間違いはない。


 男は心の中で自問自答を繰り返す。

 (言えるか? 言えないのか?)

 目ははっきりと覚めていた、変な汗まで滲み出てきた。



 ――言えるっ!



「ここは海とカジノの港町・セリア。ようこそいらっしゃいました旅のお方よ――」


 男は確信した、言えたと。

 確かに難所は突破した。

 さっきまでハラハラしていた勇者の後ろにいる戦士も安心した表情へと変わった

 安堵し、次の言葉を迎える。



「――楽しんでいってくだしゃ、い………………あっ」



 男の視界が暗くなっていく。

 意識が薄くなっていく感覚に陥り、キーンとした機械音が頭の中に響き渡る。



 不気味な音楽が流れた。



 暗い視界にゆっくりと文字が浮かんでくる――








――――GAME OVER。

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