183 魔法の森の結婚式

 魔法の森の結婚式


 メテオラが生まれて初めて一人で空を飛んだ日。あのときは無我夢中で空を飛んだのだけど、その日からあとは、一度もメテオラは一人で空を飛ぶことに成功していなかった。

 あの飛行術は、封印の間に置いてあった魔法樹の枝木の力が起こした奇跡の飛行術、つまりあの夜はメテオラにとって、本当に奇跡の夜だったのだ。

 ……そのことにそのあとの魔法学校の授業と個人的な練習とみんなとの考察を通して気がついたメテオラは落ち込んだし、マグお姉ちゃんや、ニコラス、アネット、それにあの奇跡の夜の光景を目撃したみんなも、メテオラと同じように落ち込んでくれた。

 でも、すべてが無駄に終わったわけではもちろんない。

 魔法樹の力を借りたことだとはいえ、一度、一人で空を飛んだという経験はメテオラの中にちゃんと残っていた。

 そのおかげで、コツのようなものをつかめたし、自信もついたし、それから自分が一人でも空が飛べるという根拠にもなってくれた。

 その証拠にそれからメテオラは二学期の終わったあとに行われた精霊祭の夜に、ひっそりと空を飛ぶことに成功した。

 今度は本当の本当に一人の力でメテオラは空を飛んだ。

 それはほんの少し、地面から浮き上がって、ゆらゆらと低速で危なっかしく浮遊するだけの不恰好な飛行術だったけど、その日のメテオラは興奮して、夜遅くまで寝付くことができなかった。

 それから年が明けるころになると、もともと馬力はあったからなのか、メテオラはみるみると飛行術の上達をして、なんとか半人前くらいの速度でなら、自分の魔法力の暴走を抑えながら普通に空を飛べるようにまでなった。

 メテオラは新年の日の初めての太陽を見るために、ニコラス、アネットと一緒に三人で空を飛んで北の山に出かけた。それはメテオラの人生において、今までで一番楽しい思い出深い一日となった。

 三学期の初めごろ、雪の降る日の朝に見習い魔法使い卒業試験の内容が発表された。それはうわさ通り、理由はよくわからないままだけど、例年よりも難しい、少しひねった試験内容だった。

 筆記試験、実技試験に加えて、個人別の特殊な試験が与えられて、メテオラに与えられた試験はドラゴンの卵を持ってくる、というものだった。

 その試験にメテオラは試験を受ける六人の中で、最下位の成績で、……合格した。

 チームとしての成績も、星組は月組に負けてしまったのだけど、最終戦となる教室対抗の飛行レースでは、メテオラの奇跡の飛行術(あるいは暴走ともいう)のおかげで、ぎりぎりで星組は月組に勝つことができた。

 アンカーを務めたのはメテオラとアビーで、アビーはデボラ、マリンと有利な状態でつないでくれたバトンを勝って二人に手渡すことができなくて、試合のあとに泣いていたようだった。そんなアビーを見て、モリー先生も泣いていた。

 試合中、競技場の観客席から、「アビーー!!」と大声で叫んでいた、モリー先生の声をメテオラは、あるいは物陰でみんなの様子を観察していたマグお姉ちゃんは、そんな二人の姿を見て思い出していた。

 メテオラは十歳になり、晴れて(ぎりぎりだけど)見習い魔法使いを卒業して、正式な森の魔法使いの一員となった。

 そのときにみんなで撮った集合写真は、今も宝物としてメテオラの机の上にしっかりと飾ってある。

 その年の春の初めごろ、マグお姉ちゃんの誕生日の日に、ソマリお兄ちゃんとマグお姉ちゃんは魔法の森の教会で盛大な結婚式をあげて結婚をした。

 本当にいろんなことがあったけど、こんな風にして、メテオラの見習い魔法使い卒業試験を受ける激動の一年間は、終わった。

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