67 大魔法使いアスファロットの伝説

 大魔法使いアスファロットの伝説


 今から九年前、ここよりもはるか北の大地に根付いていた魔法使いたちの住む森と、その周辺の世界を焼き尽くしたアスファロットの厄災と呼ばれる大事件を起こした張本人。

 現在の魔法の森ではその名前を呼ぶことすら禁忌とされている魔法使い、アスファロット。

 そんなアスファロットの心は、生まれたときから悪に染まっていたわけではなかった。

 アスファロットは古き森の鍛冶屋の一人息子として生まれ、平凡に育ち、当時の魔法学校では最下位の成績という不名誉な実績を残して十五歳の春を迎えた。

 アスファロットは人一倍の努力家で、しかもとても聡明な子供だったのだが、なぜそれほど成績が悪かったかというと、それはアスファロットの生まれつきの特殊な体質に理由があったのだ。

 アスファロットは生まれたときから、魔法使いなら誰でも持っているはずの『潜在的な魔法力がゼロの状態』で生まれた異端の存在だったのだ。

 アスファロットは魔法が使えない魔法使いだった。

 そんなアスファロットが森から捨てられず、魔法学校に『特別』に入学を許されたのは、『森の長老』と呼ばれていた当時の大魔法使い、アサツユの推薦があったからだとされている。

 森の長老はアスファロットの中にある本当の力を唯一理解していた人物だったのだ。

 森の長老はアスファロットを自らの弟子として励まし、育て、ときには衝突しながらも、彼を一人前の魔法使いとして卒業させることに成功した。

 魔法が使えない魔法使いであるアスファロットが魔法学校を卒業できた理由。

 その秘密は彼が卒業試験の際に発表した『魔法具』と呼ばれる道具の存在にあった。

 今では森でごく当たり前に使用されている数々の便利な魔法具たち。その生みの親がアスファロットなのである。

 アスファロットは真の天才だった。

 魔法使いたちに魔法具という革命をもたらしたのだ。

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