Chaos・World
鳴海 真樹
序章:始まりは唐突に
「ようやく、会えたね。〇〇。」
これは、冴えない少年の数奇なお話。事の発端は、冴えない少年[櫻井 瑞希(さくらい みずき)]が可憐な少女[如月 瑠璃香(きさらぎ るりか)]と奇抜的な出会いをするところから始まる。瑞希の生活サイクルは特筆すべきことが少ない位平凡なものだ。高校生になり、毎日を忙しいながらも平穏に過ごしていた。そんないつもと変わらない、いつもの帰り道。ふと、いつもとは違う帰り道を通ろうと思った。
「毎日同じルートじゃつまんないしな。」
心機一転という訳ではなかったが、偶には違う道の方が景観が変わって心もリフレッシュするだろうという安直な考えだった。そんな折、いつも使用している大通りから横道に逸れた細い路地を通った。
「へぇ、こんな道があったのか。」
そう瑞希は感想を洩らした。普段と違う道を通ると景色が変わって新鮮な気持ちになる。そして、新しい発見もある。瑞希は路地の端で横たわっている一人の少女を見つけた。それが、[如月瑠璃香]との最初のエンカウントだった。
瑞希は、細い路地に一人で横たわっている少女をそっと一瞥した。少女の身長や容姿から判別するに、どうやら中学生位のようだった。また、髪は艶やかで綺麗な黒色をしており、見事なまでのツインテールを成していた。そして何より、顔立ちは整っていてカワイイ。
横たわる中学生位の美少女を観察する冴えない男子高校生・・・。状況によっては背徳感があり、傍から見れば事案だ。瑞希は、警察の職質待ったなしのこの状況から脱する為、正直この少女とは関わりたくはなかったのだが大通りの通行人もそれは同じこと。視線を逸らし、関わろうとしない。皆、痴漢や窃盗の疑いをかけられるのが怖いのだ。
「世知辛い世の中だな、全く。」
不憫に思った瑞希は少女に話しかける。
(しかし声をかけるだけだってのに変に緊張するな・・・。別にやましい気持ちは無いからな!)
「おいっ、大丈夫か?」
「・・・ん」
息はあるが返事がない。どうやら、この路地の端で寝てしまっているようだ。
(なんとまぁ、不用心な・・・。)
いくら痴漢の嫌疑がかけられるかもしれないからと言って、このまま少女を放置しておくのはいただけないので、瑞希が少女を起こそうと体を軽く揺する。しばらく揺すると少女が目を覚ました。
「・・・あなたは誰?」
という言葉がする筈であった。いや、正しく表現するのであればすると予想した、だろうか。しかし少女が放った言葉はそんな予想を度外視するかのような言葉だった。
「あ~よく寝た~、ってもうこんな時間!?」
少女はとても可愛らしい様子で慌てていた。どうやら何か予定があるらしい。
「おっと!?」
急に少女が動き出した為、瑞希は咄嗟の事に驚いた。そんな瑞希を、少女は不思議そうに見つめ
「お兄さん、こんなところでなにしてるの?」
と少女のぱっちりとした愛らしい瞳がこちらを見つめてきた・・・カワイイ。
「えっと・・・」
と言い淀んで「危なそうだったから君を起こした」と言おうとしたが、突然見ず知らずの人間からそんなことを言われたら警戒させてしまうだけだろうと思い
「学校から帰る途中だ。」
当たり障りないことを言っておいた。
「そうなんだ。」
そう言って少女は一応納得してくれたようだった。
正直、道端に女の子(しかもカワイイ)が倒れていることに遭遇した事が皆無なのでこの場合どう対応していいか分からず内心困惑していた。いきなりそんな状況に遭遇してビックリしない人は、よほど肝が座ってるかこの状況に想像、もとい妄想している重度の厨二病患者ぐらいだろう。そもそも厨二病で{ある日いつもと違う帰り道を通ったら美少女とエンカウント}というシチュエーションを妄想するのかどうかは怪しいところではあるが・・・。残念なのか思春期にして厨二病を患っている瑞希はこのシチュエーションを妄想していたことはあった。但し二次元に限る。
現実と妄想の区別がついている瑞希は、こんなことはおこる筈がないと妄想に留めていた。 しかしそれが現実におこったのだから驚きを隠しきれる筈もない。 そんな瑞希の心中をお構いなしに少女は瑞希を観察しながら話を続ける 。
「見たところ健康そうだし・・・。うん決めた!お兄さん、逸脱者にならない?」
眩しい笑顔で少女が問いかけた。
「・・・はぁ?逸脱者?」
あまりに常軌を逸したお願いだった為に変な沈黙が生まれ、不審感たっぷりで聞き返してしまった。
「うん!」
怪訝そうな瑞希を打ち消すように少女は即答した。満面の笑みで。カワイイ。こいつ頭やべぇと最初思ったが、とりあえず話を聞いてみる。
「逸脱者っていうのは、カオス・ワールドを旅する人の総称だよ!」
普通の人なら絶対不審に思うだろう。ただでさえ[逸脱者]が何たるかいまいちピンとこないのに、加えて[カオス・ワールド]という謎の単語が出てきたのだから。しかし瑞希は厨二病。逸脱という言葉に興味がないわけがない。
(フッ、厨二病の性というやつか。)
そして、次に少女が発した言葉が瑞希の興味を鷲掴みにした。
「つまり異能者になる!」
(まじか!異能ktkr。)
もうここまできたらならないわけがない。厨二病が故に超能力に憧れてしまうのは、世の理に匹敵するほど当然の事象だからである。
Q:リンゴは何故落ちるの?A:重力があるからさ。
Q:どうして超能力に憧れるの?A:厨二病だからさ!
つまりこういうことだ。ここまで来たら、返事は決まっている。
(逸脱者になれば、異能が使えるようになるんだろ?上等じゃねぇか!)
「いいぜ、その逸脱者ってのになってやるよ!」
よいこの皆はこんな怪しい勧誘に二つ返事しちゃだめだぞ。
「うん!じゃあ、逸脱者になる為の儀式を行うね。」
瑞希の快諾に心底嬉しそうに話を進める。カワイイ。
「私と契約して、魔法少女になってよ!」
少女の真摯な瞳がこちらを見つめていた。
「・・・」
あまりにもぶっとんだ少女のお願いに瑞希は唖然としてしまった。開いた口が塞がらないとは正にこのことである。そんな状況からなんとか平静を取り戻し
「それは本気で言っているのか?」
と恐る恐る質問した。瑞希の様子から自分の間違いに気づいたらしい少女は
「あっボンミスしちゃった、てへぺろ。」
そう言って少女は自らのミスを認めた。
(ボンミスだったみたいだけど、もしかして俺、あのまま承諾してたら魔法少女になってた・・・?)
瑞希は少し魔法少女という単語に心動かされていた。
「じゃあ仕切りなおして、汝我が身を以て逸脱せんと欲するか?」
「・・・ああ。」
瑞希は、少女の先程の調子とは打って変わって堅い口調に一瞬戸惑ったが首肯する。
「契約成立、じゃあ早速行こう!」
堅い口調に圧倒され、何か仰々しい魔法陣でも出現するのかと思ったが、そんなことはなくただの口頭契約で済んでしまった。
(なんとしょぼい契約なんだろう・・・。本当に効果はあるのか?)
「いやいやちょっと待て!どこも変わった様子ないぞ?」
逸脱者になったという割には自分の体に逸脱した要素は見当たらなかった。そんな瑞希な問いかけに、瑠璃香は心配するなという感じで答えた。
「体の変化はカオス・ワールドに行かないと起こらないの。詳しい説明は向こうでするから、とりあえず行こっか!」
こうして長い長い前置きを経てやっと、櫻井瑞希の冒険が始まるのである。
「あっ、その前に一ついいか?」
始まらなかった。瑞希が少女を遮る。
「今更な感じもしなくもないんだけど、お互いの自己紹介しないか?」
瑞希はそう提案した。お互い会ったばかりで素性も知らないのに冒険に出かけるのは色々とアレだ。そう思い瑞希は
「じゃあ、俺から。俺は櫻井瑞希、17歳だ。好きなものは、緑茶だ。」
と端的に紹介を済ませた。我ながら緑茶が好きとは爺臭い気もするが、好きなものはしょうがないだろう。
そして今度は少女が
「私の名前は如月瑠璃香。歳は14で~、好きなものはおもしろいものかな!」
そう明るく紹介した。屈託のない眩しい笑顔だった。カワイイ。内容が少々端的気味なのは瑞希に合わせてのことだろう。
「じゃあ、お互い名前も知ったことだし、行こうかカオス・ワールドへ!」
改めて覚悟を問う様に瑠璃香がこちらを見つめてくる。
「あぁ!」
力強く、確かな声で返答した。
「うん!詳しい自己紹介は改めて向こうでするから、今はとりあえずレッツゴー!」
次の瞬間、瑞希の視界がテレビの電源を落とすかのようにブラックアウトした。
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