冬眠と社会保障

「聞いた? 大手ゼネコンのA会社で大規模な依願いがん冬眠が行われたらしいよ」

「えーまじー、冬眠ってありえなくない?」

「だよね、時代に逆行してるよね」

「でもびっくり。A社だよ。冬眠するほど追い詰められてたんだ」

「課長は冬眠するんですよね」

 突然若い会社の子に話しかけられて一寸ちょっと驚いた。

「あ、ああそうだな」

 私は答える。

「えー、なんでですか? もったいなくない?」

 若い社員は不思議そうに私を見た。

「いやいや、そうでもないよ。冬眠すると、住民税が減額されるんだ。それに会社から冬眠手当ももらえる。勿論それでも収入は減るが、冬眠中はエネルギーもそんなに消費しないし、ライフラインも最低限でいい。つまりお金がかからない。冬眠するってとてもエコなんだ・将来の年金生活を考えてみなよ。冬眠しようが冬眠してなかろうが、もらえる年金額は一緒だぞ。そのことを考えれば冬眠を今のうちにしておいた方が、老後の備えにもなる。年を取ってからの冬眠はリスクが高すぎるから――」



「あの課長、3月まで冬眠って」

「えー、うっそー。それってほぼ半年じゃん」

「なんか年々、冬眠期間長くなってるらしいよ」

「フツウ2か月とか3か月じゃないの?」



 半年の冬眠から目覚めた私は強烈な倦怠感けんたいかんに襲われた。来週から会社だ。嘘だ。なんで会社なんだ。半年も冬眠していた私には、会社なんて無理だ。しかし会社に行かなければお金はもらえない……。冬眠……。半年冬眠じゃ足りない。次回は7か月にしよう。そのためには体温調節や、食事に気を付けないと。ああ、室内温度や運動時間も調節しなきゃ。ネットで検索だ。【冬眠 時間 引き伸ばし 7か月】――



「あの課長、次の冬眠は5月から始めるって」

「え? いつまで?」

「3月過ぎ」

「へえ? 10ヵ月? 11ヵ月!? ほぼ1年じゃん!」



 足りない。足りない。



「課長――永久冬眠リストに入ったんだって」

「えーうちの会社良く許したね」

「うん、なんでも、補助金が出るらしくて――」

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