6-7 おまけ -Shin-
私の名前はシン。
天界最高峰の神様、主護者を束ねる主、この世の創設者などと呼ばれています。
先日、主護者の一人であるディルスから緊急の連絡があって、すぐに来てほしいと頼まれました。でも、私は今は行けないから、通力量の少ない分身を一体作って送りました。そして、長年行方が分からなかったエルナとディルスの二人――通称〈夜コンビ〉の現状を知り、いくつか気になることがあるから、しばらく二人の様子を見ることにしたんです。
――その七日後、問題が起きました。
**
フィルを見つけた場所――フーリにディルスを送った後、地球にいる私の分身は消えた。作った時に込めた通力が少なかったから、仕方ないね。
連絡が取れる仲間の中で、任務中ではない九人にディルス達の事情を伝え、あの子を探すように頼んでから、私は魔界の中心に建つリンの屋敷に向かった。
リンは大体、屋敷の二階にある書斎にいる。
その部屋に直接行ければいいんだけど、転移では異空間である屋敷の中に飛ぶことは出来ないから、私はいつも移動先を玄関前に指定している。
リンの屋敷は高台の上にあって、周りを針葉樹に囲まれている。建物の外観はお城みたいで、暗い色の煉瓦と石で造られている。三階建てで、横幅が長く、中央に玄関の扉がある。
屋敷に入った私は、左端にある階段で二階に上がり、真っ直ぐ伸びた廊下を進んだ。右側の壁には大きな窓が、左側の壁には五つの扉が等間隔に並んでいて、端から三番目の扉が書斎への入り口。他の扉より大きくて、簡素な装飾が施されている。
私は一瞬考えてから、書斎の扉を押し開けた。
広い部屋の中には、リンが集めた本が詰まったたくさんの棚と、正面の一番奥に豪華な机と椅子がある。その下には黒い絨毯が敷かれていた。
リンはいつものように、右に向けた椅子に座って分厚い本を読んでいた。
けれど、その赤い双眸はすぐに私に向けられる。
「魔界には来るなと言っただろ。死にたいのか」
冷めた口調でリンが言った。
分身じゃなく本体で来たからね。怒ると思った……
私は机の前まで歩み、
「ごめん。でもここならいいでしょ? リンがいるから」
にっこり笑って言うと、リンは深い溜め息を吐いた。読んでいた本を閉じて、机の上に放り投げる。
機嫌が直ったわけじゃなさそうだけど……話は聞いてくれるみたい。
「お願いがあるの」
「どうせエルナのことだろ」
リンはつまらなそうに応えた。
「……どうしてわかったの?」
「今、魔界中で騒ぎになってる。新しい人格が出来たそうだな。
剣士じゃなくなったのなら捕るのは容易いと、雑魚どもが舞い上がっていたよ」
「…………やっぱり、もう広まっているんだね……」
外れてほしかった予想が当たり、私は少し悲しくなった。
あの子が世界を渡ったことが妖魔の仕業でもそうでなくても、地球を含めた七つの世界と天界以外の世界に移動した時点でそうなると思っていた。それだけエルナは有名で、狙われるには十分なほど多大な通力を所持しているから。
「あいつの通力量が少なければ、気付かれるのはもう少し後だっただろうな」
私の心中を察した上で、リンが言った。
私はしばらく考え、
「……まだ妖魔達に知られていなければ、いなくなったあの子を探すのを手伝ってもらおうと思って来たんだけど……そういうことなら――
リン。その騒ぎ、どうにかして治められない?」
きっと断られると思うけど、リンに頼ることにした。
もしこのまま騒ぎを放っておけば、あの子は今後ずっと妖魔達に狙われることになる。エルナとは違い、今のあの子は戦う術を持たないから――最悪、死ぬかもしれない。私が傍で守ってあげられるといいんだけど……でも、今の私にはそれだけの力が無いから……
「…………」
意外にも、リンはすぐには返事をしなかった。いつもならすぐに、
『そんなことをして、私になんの得がある?』
みたいな冷たい事を言って断るのに。
不思議に思って見ていると、リンはゆっくり立ち上がり、
「――いいだろう。騒ぎはどうにかしてやる」
言って机を擦り抜け、私の左横を通り過ぎ、そのまま扉に向かって歩く。
「但し、お前が力の大半を失ったことと、天界が崩壊したことは許してないからな。
……協力するのはそれだけだ」
リンは私を見ることなく、そう言い残して部屋から出て行った。
私は驚いたまま、その背を見送った。
「……珍しい……何かあったのかな……?」
少し気になって、思わず呟いた。
その後すぐに、ディルスから『あの子が見つかった』と連絡があった。
私は分身を作って送ってから魔界を出た。
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