白船来航
安崎旅人
第1話 挨拶
その年を、人々は忘れることがないだろう。嘉永6年、**暦1853年、日本の首都・江戸は提督ぺシェール(Varxle'd Pexerl)の船団による電撃的訪問を受けた。鎖国を通じて国内情勢の安定に努めていた日本政府にとって、これは通常でも驚くべきことだが、現在の人々が思うよりも当時の人はもっとずっと驚いたのだ。日本人の識字率は当時から90パーセントを超えており、多くの江戸っ子が秘密の回覧板(蒲鉾板大の木の板で、なぜか
船が浦賀に接岸して提督がタラップを降りてきたときには、日本全体が上を下への大騒ぎであった。快晴の空に映える純白の船から、黒い軍服を着たぺシェール閣下が現れると、政府の要人が冷や汗をかきながら通訳を従えて出迎えた。通訳の一人に、鶴瓶達吉という男がいた。下級武士出身の達吉は、英語を堪能に話すというその一芸で、日本国総代表の主席通訳官に任じられたのだ。
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達吉は日本人離れした英語舌を振り回してぺシェール閣下に挨拶した。
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しかし、ペシェール閣下は不機嫌そうにそれを遮った。
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達吉は驚愕した。この世に英語を解さない外交官(軍人でもいい)が居るなどとは、英語帝国主義者の彼には到底思えなかったからだ。その上、この言語はなんだ?
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ぺシェール閣下は激怒した。政府の役人は冷や汗まみれになりながら、肘で達吉を突っついた。
「これ、何をしておる。早う通訳せんか。事と次第によったら切腹ものだぞ」
役人はぺシェール閣下に向き直ると、ペコペコと頭を下げた。下げながら、達吉の腕をつねった。器用な男である。達吉は目を閉じた。そのとき、達吉の脳裏に一閃、微かな記憶が蘇った。もしや、これは例のリパライン語とかいう言語ではないか?ルクーフ、だの、セーネだの、そうだ、そうに違いない!達吉は痛みに耐えながら(役人はまだ彼の腕をつねっていた)、必死にリパライン語の挨拶を思い出した。そして、彼は思い出してしまったのだ。
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その瞬間、ぺシェール閣下の拳骨が達吉の脳天を直撃した。
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