この場所で

勝利だギューちゃん

第1話  出会い

秋が好きだ・・・

誰もいない、秋の海が好きだ・・・

誰にも邪魔されない、自分だけの空間・・・


周りから、隔離された社会・・・

とても、居心地がいい・・・


僕は、社交性がない。

異分子・・・

誰とも関わらないほうが、互いのためになる・・・


秋でも、9月ごろは、まだ人がいる・・・

なので、10月から11月にかけての、海が好きだ・・・


この季節、好きこのんで海に来る人は、ほぼいない。


秋の浜辺に、来る・・・

希に、釣りをしている人がいるが、気にしない。


その浜辺に、イーゼルを立てて、白いキャンバスを乗せる。

そして椅子を置き、腰を下ろす・・・


「さあ、ショーの始まりだ!」

心の中で、少しばかり気合いを入れる・・・


手に鉛筆を持つ・・・

ここで絵を描くのが、最大の楽しみ・・・


でも、海は描かない。

描くのは、海の中の世界・・・

目を閉じれば、そこには無限の世界が広がっていく。


今まさに、海の中でおこっている事が、頭に入ってくる。

それを、キャンバスに描く。

鉛筆が、勝手に動いてくれる・・・


時々、周囲の冷たい視線が突き刺さるが気にしない・・・

今更、人に好かれたいとも思わない・・・


しかし、中には物好きな人もいるもので、僕に声を掛けてくる人がいた。

近所の高校の制服を着ている。

おそらくは、僕と同い年くらいの、女の子だろう・・・


最初は、後ろから覗き込んで、くすくす笑っていたようだが、

集中していたためか、気にならなかった・・・


しかし、ある時声をかけてきた・・・

「君、面白い物描いてるね」

無視を決め込む。どうせ、冷やかしだ・・・

「ねえ、返事をしてよ・・・」

無視をする。冷やかしも大概にしてほしい・・・


すぐに飽きると思っていたが、なかなか止めない。

そんなに楽しいか?

まあ、ここで描いている僕も悪いのだが・・・

うんざりしているのも、事実だった・・・


ある日、いつものように、その子が声を掛けてきた。

「・・・何の用・・・」

「おっ、やっと話してくれたね」

彼女は、ニコニコしていた・・・


「ねえ?」

「何?」

「名前教えてよ、私も教えるから・・・」

「・・・必要ない・・・」

「アドレス交換しよ」

「・・・持ってない・・・」

「今時?」

「・・悪かったな・・・」

そのようなやりとりが続いた。

オウム返しとはいえ、こんなに会話したのは久しぶりだった・・・


悪い気はしないが、やはり僕は、社交性がない・・・

これ以上は、ここにいないほうがいいだろう・・・


僕は場所を変えた・・・

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