不格好な悩み

 村長と三人でミツハの料理に舌鼓を打った後、後片付けをして俺とミツハは部屋に戻っていた。




「ミツハ、今日の料理は本当に美味しかったよ。ご馳走様」




「今日の料理……”は”?」




「え?今日の料理”も”って言ったじゃないか」




 慌てて誤魔化すもミツハは怒った振りをしていただけだったようですぐに笑いだした。


 本当によく笑う子だな、と改めて思った。




「冗談だよ、ゴロちゃん。私も自分の料理食べられなくて夜にコンビニ行った事あるし……。気付かなかった?」




「え、そうだったのか……でもな、ミツハ。俺は感謝してたよ。それは美味しい美味しくないなんかじゃ決してないから」




「でも美味しい方がいいでしょ?」




「うん、そりゃ間違いない」




「じゃ、これから"も"期待してていいよっ」




 なんだかこっちの世界に来てからミツハは喜怒哀楽をより強く見せるようになった気がする。


 いや、違うな。


 昨日の夜、俺とミツハがお互いに本心で話合ったからか。


 でもそれもこの世界に来たからこそ起こったこと、それに変わりはないな。




 たらればだけど、あっちの世界で普通に暮らしていたら俺は今も尻軽猫を追いかけていて、それを見ているミツハは無理して笑ってたのかもな。


 うん、それにしても名探偵を気取らなくてもいいってのはなんかスッキリするな。




 でも、もし叶うなら。


 ミツハが未だに一番憧れているであろうミツハの兄あいつみたいに色んな事件を解決して見せてやりたいなぁ。




 俺は心の中でステータスおくれーー!!!と叫び、現れたステータスを見る。


 そこには最初に見たときと変わらぬ文字で<探偵(迷)>と書いてあった。




 まぁなんにしたって始めてすぐに前途洋々、という訳にいかない事くらい分かっている。


 でもミツハはこっちの世界に来てすぐ狼を倒して、美味しい料理まで作れるようになって……。


 どんどん俺との差が広がっていってしまう。


 これで焦らないわけがないよな。




「ねぇねぇ、ゴロちゃん」




「おう?」




「返事する時アシカの真似するのやめてっていつも言ってるでしょ。それよりこれからどうする?そもそも世界の謎ってなんだろうね」




「……そんなこと俺に聞かれても分かる訳ねぇだろ。こちとら迷探偵だぞ」




 しまった、自分だけ上手くいかない気がしていた焦りからかミツハに強くあたってしまった。




「…………はは、そうだったよね。ごめんごめん。じゃあ寝ながら考えてみよーっと。ゴロちゃんも考えといてさ、また明日話そっか」




「あぁ……ミツハ、ごめん……」




「ん?何も聞こえなかったから平気だよーだ。じゃあ今日も仲良く一緒に寝るとしますかぁ」




 おい、やめてくれ。


 こんな格好悪い俺にそんな気を使わないでくれよ。


 ……くそっ、前の俺はこんなみっともなくなかっただろ!


 大人の俺がしっかりしないといけないのに。




「……ミツハは先に寝ててくれよ。俺はちょっと夜風にあたってくるから」




「えーか弱い乙女を一人置いていくなんて。んじゃあ早く帰ってきてよね! ……寂しいから」




「ああ、分かってる。おやすみ、ミツハ」




 俺はそういって村長の家を出た。


 あれ以上ミツハと話していたら自分がもっと情けない自分になってしまいそうだったから。




 ふー、外の空気を吸ってたら少し頭がスッキリしてきたぞ。


 そういえば、あっちの世界は猛暑だ酷暑だって騒がれていたけどこっちの世界は涼しいなぁ。


 ま、向こうと同じ時期かどうかは分からないけど。


 なにより季節があるのかさえ分からないからな。


 そう考えるとこの世界について何も知らないもんだと改めて思い知らされる。


 これから進んでいく道のりは足元が暗いな。しっかりと進めるだろうか?


 一旦どこかで足を止めて土台を固める必要があるかもしれない。


 そのためにはやっぱり大きい街に出ないといけないだろうな。




 明日、ミツハに話してみよう。




 よし、何となく考えもまとまったし夜の散歩も悪いもんじゃなかったな。


 俺はそう思いながら村長の家に戻る。




 ミツハはもう寝てるだろうから、とそっと部屋の扉を開く。


 お、寝てるな。


 よしよし、俺もさっさと床で寝ちまおう。


 スーツのジャケットを掛ければ寝れなくもないだろう。


 そう思って床に寝転がろうとした。




「ねぇゴロちゃん」




「おう?」




「……そんなに好きならアシカやっていいよ。それより……私ゴロちゃんになにかしちゃったのかな?それなら謝ったりしてさ、仲直りしたいな」




 いや、今のはアシカじゃなくてビックリした声なんだけどな。


 寝てると思ったのにまさか起きているとは……<狸寝入り>のスキルか?




「ん?いや、俺の問題だよ。さっきはあたってしまって悪かったな。もう十分頭は冷えたから大丈夫だぞ」




「それならこっち。ゴロちゃんこっち」




 ミツハがベッドの空いたスペースを叩いている。


 隣に入れって事なんだろうけど……なぁ。




 俺が戸惑っているとミツハは無言でベッドを叩き続けている。




「……はい」




 俺は観念してミツハが待っているベッドに潜り込む。




「ゴロちゃんが何を悩んでるのか知らないし話したくないなら聞かないよ? でもさ、もっと私を頼って欲しいよ。私だってゴロちゃんの役に立ちたい!」




「おいおい、そんなの今のままでも十分だよ。敵は爆散、料理は美味い。それでいいじゃないか。それに……ミツハはまだ子供だろう」




「!!」




 隣のミツハがなにやら驚いている。


 俺は本当の事を言っただけなんだけどなぁ。




「ゴロちゃん本気でそう思ってるの? 私もう18だよ? ゴロちゃんはまだ私を小学生だと思って見てるよ! もう十分結婚してもおかしくない歳だし子供だって……産める……んだから」




 おうおう、なにやら勢いで言ったはいいけど最後のは蛇足だったって感じだな。


 でもその言葉を聞いて改めて隣にいる少女に目を移す。




 ……うん、完全に女性だ。


 大きくなったなぁと思っていた膨らみも、確かに言われてみれば小学生の頃と比較して、という部分がどこかにあったのかもしれない。


 まぁそれでも大きいものは大きいんだけど。




 まだ子供だから守ってやらないといけないと思っていたミツハに守られて、情けないと思っていた。


 でも違った。俺とミツハは人として対等なんだ。


 もしかしたらミツハを一番軽んじていたのは俺なのかもしれないな。




「あぁそうだな。ミツハ、これからもよろしく頼むよ」




「そんな改めなくても私はゴロちゃんの助手なんだからいつまでもお手伝いするに決まってるじゃない」




 そうだ今はこの笑顔が側にあればいいんじゃないか。


 お互いを尊重しあって進んでいこう。




「あ、やっとゴロちゃんスッキリした顔してるぅ! 私はそっちのゴロちゃんのが好きよ。ふぁ〜あぁ……眠くなっちゃったから私もう寝ぐぅ……」




 おお、器用にも言っている側から寝たぞ。


 こりゃ大分我慢して待ってくれていたんだなぁ。




 俺は無防備な姿で寝ている"相棒"を頼もしく見つめた。


 私はそっちのゴロちゃんが好き……か。




 って、確かにスッキリしたけど……いやむしろ悶々と……!




 夜は長い。

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