こちら異世界探偵事務所 〜<推理(迷)>スキルはチートに決まっているだろ〜
梓川あづさ
プロローグ
俺は森五郎、探偵だ。
今日も事件を追っている。
久々のデカいヤマという事もあって気を張らないといけない……のだが。
どうにもこうにも集中出来ない。
もちろん、理由は分かりきっている。
プリンだ。
事務所の冷蔵庫に入れおいたはずプリンがなくなっていたのだ。
久々の依頼が来たから景気づけに買って名前まで書いておいたんだぞ。
しかもあの「ビビッド」のプリン……俺だって初めて買うし財布から1000円札を出す時は震えていた程の高級品なのに。
あぁ、ただこの事件の犯人は既に分かっている。
俺は名探偵だからな。
事務所に出入り出来たのは俺と助手をしてくれているミツハの二人だけ。
さらに食べ終わったプリンの空容器には容疑者のマイスプーンが残されていた。
この手掛かりから犯人は……ミツハ、君だという事になるのだ。
犯人はこの事務所の中にいる!推理ここに至れりっ!
そのあと、ミツハからは当然謝罪を頂いている。頂いてはいるのだが。
「あ、ごめんなさーい。だって一つしかなかったし優しいゴロちゃんの事だから、もちろん私の分なんだろうなって」
確かに事務作業全般をしてくれているミツハに隠れて食べようとしたのは悪かったかもしれない。
だって……
高かったんだもん……。
先月は大した依頼がなかったし、先々月も大した依頼がなかったし……。
森探偵社は今日も火の車だ。
まぁ確かに世間一般の人からしたら俺の探偵社は敷居が高いかもしれないな。
ただ麻薬のシンジゲートを壊滅させたりだとか、人質をとった犯人を狙撃したりなんてのはお手の物という事くらいは分かって欲しい。
昨日だって寝る前にスマホゲームで綿密にシミュレートしたし死角はないはずだ。
なんて事を考えていたらもう夕方の五時。
今日はここで見張っていても大きな動きはなさそうだ。
そろそろミツハが晩御飯の用意をしている頃だろうし、帰ってやらないと。
最近料理に凝っているミツハはしょっちゅう料理を作ってくれるんだよな。
まぁお世辞にも美味い……とは言えないのだが。
というかマズイ。決定的にマズイ。
そもそもミツハはドジだから砂糖と塩を間違えるなんてしょっちゅうだ。
でもさ、帰ったら温かい食事があるというのはすごく嬉しいんだよな。
そんな事を考えながら歩いていると我が城「森探偵社」に帰りついた。
「ただいま」
そう言いながらドアを開けると……。
耳をつんざくような爆音が響き渡り、熱風が吹き荒れ……五郎とミツハは……死んだ。
ーーーーーーーー
ううん……おお、なんだか暑いな……いや熱い!熱いぞっ!
俺は慌てて飛び起きて辺りを伺う。もしかしたら火事かもしれない。
そう思っていたのだがどうやらそういうわけではなさそうだ。
なにしろ俺の周りは……真っ白な空間だったからだ。
すでに煙が充満しているのか?とも考えたが全く息苦しくもないし違うだろう。
夢だったのか。というか……あれ?俺って息しているか?自分の身体の事なのにひどく曖昧に感じた。
おっと……それよりも隣で丸まりながら寝ているミツハを起こさなくては。
「おーい、朝だぞー」
起きる気配はない。うぅむ、仕方がない。
「おーい、ビビッドのプリンを買ってきたぞー!」
ガバッ!っと音が文字になりそうな勢いで飛び起きるほどなのか。
「どこ?どこ? 私のプリンはどこ!? あれほっぺが落ちちゃうくらい美味しいんだよねぇ。また買ってきてくれたなんてゴロちゃん優し……」
と、そこまで一息に言い切ったところで周りの状況に気付いたらしい。
辺りをキョロキョロと見回している。
そうだよな、俺も起きた時は視界全面が真っ白で驚いたもんだ。
「あれ、プリン……なぁい……」
そっちかい!
というかそんなに美味かったなら一口、せめてスプーンに一匙分くらいは残しておいて欲しかった。
「ミツハさんよ……プリンがあるといったな。あれは嘘だ」
とりあえず正直に言っておこう。後で怒られるのも嫌だからな。
「……そっか……ビビッドのプリンは……なかったんだぁ……」
おいおい、泣き出したぞ!むしろ食べられなかった俺が泣くべきじゃないのか?
「大丈夫だ、ミツハ。今回のデカいヤマが片付いたら豪勢に二つずつ買って食べよう。一つはなんと……焼きプリンだぞ」
「そう……だね! 猫のミーちゃんの不倫……難事件だけど頑張ろうね!って……ここどこ?」
「分からん。そもそも俺の記憶だとそろそろ晩御飯だ、と事務所に帰ったと思ったんだが」
「えー私の記憶では、ゴロちゃんがビビッドの件で拗ねてそうだったからお詫びにプリンを作ってみようと思ってコックパッドを見ながら作ってたんだけど」
しかし、最後の記憶で起きたあれは爆発……だったよな。
プリンは爆発するか?いや否。
プリンを作る工程で爆発するか?いや否だ。
でもドジなミツハの事だから何があっても驚かないが。
まぁやはり黒の組織的なところの仕業が濃厚か……
ーーもし……茶番はそろそろ良いか?
そんな声が頭の中に響いてくる。
ビックリしたぁそれにものすごくうるさい。
「誰だ!?声のボリュームが大きすぎるぞ。頭が割れるかと思ったわ」
ーーあ、あぁすまん……これでどうかの?
「……あぁ大丈夫そうだ。ん? それでどこにる?」
ーーワタシはいつも心の中にいるのじゃ。
「あ、間に合ってまーす」
ーーま、待て!宗教の勧誘ではないぞ!心の扉を閉めるでない。そもそもお主達は既に死んでおる。
「な……な……何だってー!!?」
ミツハも小声で「な……な……何だってー!!?」と言っているしこの声は同じように聞こえているようだ。
というかこういう時のリアクションが分かっているとはさすが俺の助手だ。
「で、どういう意味だ?まさかプリンが爆発した、なんてことはないよな?」
ーーうむ、実はそのまさかじゃ。厳密にはプリンが爆発した訳ではないがおおよそその通りである。
「何だと? プリンめ……想像以上に危険なやつだ。……まだミーちゃん不倫事件が片付いていないっていうのに……くそったれ!あぁ、心残りだぜ……まぁ探偵には危険がつきものだしいつかはこういう日が来るとは思っていたしな」
ーー……ゴホン!そこで、じゃ。
「ごめん、何?そのわざとらしい咳は。バカにしてる?ミーちゃんをバカにしてる?」
ーーいや、ミーちゃんはバカにしておらぬが……話が進まないのう。とにかく!生き返るチャンスがある、と伝えにきたのじゃ。
「な……な……なろう?」
ーーまぁやってほしい事があってそれを受けてくれれば、という条件付きにはなるがの。……ううむ、名・探偵と聞いたのじゃが心配になってくるわ。
「つまり、依頼か?」
ーー依頼?ま、まぁ概ねそういう事じゃ。えらく突然真剣な顔になるのう。
「いいだろう、請けよう。俺は誰の依頼も断らねぇ。それが信条だ」
「いや……断るほど依頼がないだけっていうか……」
「いいかねミツハくん、これは男と男?の話し合いだ。絶妙なタイミングで口を挟まないでほしい」
ーーおお、では請けてくれるのじゃな? では"依頼"の話をしよう……
"世界の謎を解き明かせ"
それが俺と、ミツハが請けた依頼だ。
正式には俺が請けたのだが、俺の助手はミツハしかいないに決まっている。
当然のように着いてくる事になったミツハとともに人として世界に舞い戻る。
そうして思った事は……
あれ、ここ地球じゃないね?
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