無色サリトテ美しく 〜世界の終わりに獣耳少女を添えて〜
梓川あづさ
おわりのはじまり
とある王国が古代の遺跡で秘宝を発見した。
年若い捜索隊の一人が感嘆と共に迂闊さを滲ませた。
待て、と隊員たちからの声が早いか次の瞬間には触れた手がかき消えーー
若い命が散った。
長く続いた戦火を引き摺るようにして、疲れ果てた古代の文明は眠りについた。
その焼け跡から若芽を育てるように長い時間をかけて今の文明が発展した。
そんな事は常識であり、お伽噺として庶民の間でも語られていた事だ。
古代の遺跡に眠る秘宝と呼ぶようなものはそういった時代背景からか兵器のようなものが多数含まれている事を忘れていたが故の散華だった。
その報告を玉座で聞いた王は口元を歪めた。
ーーこれで周辺国を威嚇、ともすれば侵略してくれよう。
そうして王は国中の研究者を集め、秘宝の調査、複製を指示した。
研究を初めてすぐに、一人の少年のような研究者見習いが声をあげた。
こんな研究はやめるべきだ。
仮に上手く行っても人の命を徒に奪うことになる。
研究者としての志はどこにあるのだ、と。
研究者として年端もいかぬ少年の言葉に耳を傾けるものは一人としていなかった。
少年は研究室から追い出されるようにして姿を消した。
その後も研究は国を挙げての一大事業として大量の人員と相応の財が投入された。
しかし現代の科学力とは隔絶した高みにある古代技術の解析は思うように進まなかった。
一年、また一年と時だけが経ち、国はみるみる疲弊していった。
もう無理だ。
そんな諦念を研究者達が持ち始めた頃だった。
一人の青年研究者が声をあげた。
それはもともと兵器などではない、と。
大した理想をお持ちだ、と嘲笑された少年研究者は青年になっていた。
後に孤高の天才とも称される彼は既に確信を持っていた。
あの時に届かなかった声は諦めかけ、疲れ果てた研究者の耳へついに届く。
そうして青年が加わると錆びて動かなかった研究という車輪が動き始めた。
間もなく、研究者を代表して青年から発表があった。
古代の遺跡で見つけた”これ”は。
やはり兵器ではなかった。
そして既に自分たちの手で試作機を作れるようになったという事を。
何年もの時間と数え切れないほどの金を使ってようやく得られた結果に王は怒り狂った。
その矛先は真っ先に声をあげた研究者に向けられた。
半ばその身を拘束されて連れ出された玉座の前に研究者は立つ。
王は尋ねる。
貴様達が調べ、詳らかにしたものはなにか?と。
研究者は答える。
ものを運ぶための『転送機』である、と。
そうか、と口にした王が続ける。
兵器に転用できるのか?と。
これは出来なければ命はないという意味であった。
しかし年若い研究者は首を横に振る。
ならば死ね。
王がそう発声する、その数瞬前に発声することが出来た研究者は云う。
私はこれを使って国を救うことが出来る、と。
不敬であると罪に問うことも出来ただろう。
しかし王は自分を前にしても考えを曲げない研究者に”本物”をみた。
それならばやってみせろ。
王もまた”本物”であった。
ーーーー
試作機から改良を経て正式に『転送機』となった”それ”は王国中に配備された。
遠く離れた海の魚を新鮮なまま内陸で楽しむことが出来る。
地方の珍しい特産物だっていくらでも運べる。
国と国の境界線を守る砦にも充分な食料がすぐに届けられる。
流通の進化はいつの時代も経済を発展させるものだ。
王国も例外ではなかった。
疲弊しきっていた国はみるみるうちに活気を取り戻した。
その数年後にはもはや建国以来最高ともいえる栄華を誇った。
周りの国々も手を拱いていたわけではなかった。
どうにか”それ”を手に入れたい。
多大な金銭に加え、不利な条文を飲み込めた国々は幾台かの転送機を拠出されていた。
もちろんすぐに解析を試みるも核となる古代技術については全くお手上げだった。
それもそのはず、王国内でも天才青年研究者の他に核の部分の詳細を知るものはいなかったのだから。
こうして三代に渡り王国は一切の翳りを見せず咲き続けた。
このまま領土を拡大して大陸すべてが王国になっていく。
他国の街角ではそんな話が実しやかに囁かれていた。
そんな折、王国から各国へ声明が発表された。
転送機の秘を各国々にも開示すると。
遺跡から秘宝が発掘されてからちょうど100年が経っていた。
それは青年から壮年になった天才研究者の意向だった。
曰く、これからは争う時代ではなく共に歩む時代である、と。
その言葉に共感し、利を見た他の国々は王国に指定された場所へと赴く。
こうして時代はーー
終焉を迎えるのである。
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