大切なもの

第1話

「君にとって、一番大切なものは、何？」

クラスメイトの女子に、いきなり質問された。

そう訊かれると答えに困る。

「命」

無難に答えておいた・・・

「そうじゃなくて・・・」

「えっ？」

「もっと深い意味で・・・」

そう言われると答えに困る。

一度も考えた事はない・・・

人は失ってみて、初めてその大切さに気が付く・・・

でも、それを失うことは考えない・・・

存在が当たり前だと、思っているからだ・・・

逆に訊いてみた・・・

「それなら、君の大切なものは？」

「私の？」

「うん」

彼女は、しばらく考えて口を開いた・・・

「君と同じだよ」

「えっ？」

「だから、その答えは君と同じ。正確には思ってることが・・・」

「わからない？」

「うん・・・」

普通に考えて、わからないだろう・・・

「じゃあ、こうすれば、分かる？」

彼女は、僕の手を握ってきた・・・

何かが伝わってくる・・・

彼女の心の中か・・・

それが、僕の心に語りかけてくる・・・

周りがいろいろな物で、埋め尽くされている・・・

でも、散乱しているが、一部はまとまって整理されている・・・

「これは・・・」

「わかった？」

「うん・・・」

念のために、訊いてみた・・・

「全部、私の大切なもの・・・」

「うん」

「散乱しているものは、まだ失っていない物」

「なら、まとまっているのは？」

「失ったもの・・・」

大切なものは、失っても、無くなることはない・・・

記憶の、そして、心の片隅に、保存される・・・

大切なもの・・・それは、思い出・・・

あの世へ行く時に、唯一持っていけるもの・・・

目の前の女の子・・・

君との思い出は、いくつ持っていけるのか・・・

出来る限り、多く持っていきたい・・・