有り余る言葉に途方に暮れる。


 大会まで一週間を切った。


 創作というものは水物というやつで、脳髄の機工がまた動きを止める前にすぐに次を書き出さなければならない。


 とはいえ、創造力が動き出したら出したで、これもまた一苦労だ。


 言葉は無数に思い浮かぶ。 そしたら今度はそれにあう欠片を見つけ出さなければならない。


 それは例えるならジグソーパズルのピースとピースを嵌めこむ作業に似ている。


 これは合う。 これは合わない。 いやこの部分なら…やはり駄目か、いやしかし…。


 ブツブツと言の葉を掛け合わせながら、書き出しても次の日になれば、やはり違うと思えるし、逆にこれがピッタリだとも思える。


 結局は決めるのは自分自身だ。 だからこそ失敗したと思えたなら、そのダメージは大きいのだけれど。


 ところで作品の創り方には大きく分けて二種類ある。


 自分自身の体験とそこから導き出される感情と想い。 そしてもう一つは今まで見てきた作品やそれらを基にした想像だ。


 あるいはそれらを組み合わせてつくりあげる。


 さて一作目は順調に作り上げることが出来た。

 

 では二作目はどうしようか?


 大会に参加して勝ち上がり続ければ当然、作品は複数必要なのだが、トーナメント方式だということを考えると当然テーマもまた分けたほうがいいだろう。

 

 だがここで一つの問題がある。


 俺は一つのテーマを引きずりやすい。


 それは小説でもそうで、また根が暗いのでどうも暗い作品が多い。


 ただそれは長ければ長いほどに覆い隠せるのだが、今回は数分間の発表時間なので内容は短いのだ。


 それはつまりどういうことか?


 書いても書いてもテーマが被ってどうしようもねえんだよ!


 いやテーマが似通っているというのはしょうがないとは思うのだけれど、今回の場合は…どうも…ねえ?


 実は数ヶ月前に出したサークルに書いた作品からずっとテーマというか想像力の取っ掛かりが完全に過去の自分になってしまって、また始末が悪いことに実体験であるがゆえに豊富に言葉が浮かんでくる。


 そのせいで他のテーマに繋がるような言葉が出てこない。


 よし! 恋愛について書くぞ! と思って書き始めても好きなあの子は隣のクラスのヤンキーとくっ付いてしまって、しかもその二人がヤッテるという童貞マックスな自分がひそかに涙を流すというネトラレ属性な代物となってしまう。


 それならばと、自分にとっての正解を求めて悩むテーマで書いたらAVを常に三本は借りるようになってしまった悲しみを唄う作品となった。


 いやいや俺はまだやれるんだ! と思って、世界の不条理を嘆くテーマで書いたら、恨み辛みと殺意をふんだんに盛り込んで犯罪心理学者の教材になりそうなルサンチマン丸出しの作品になった。


 こんなもん、大会で読めるか! ただでさえ初出場なのだから、ちゃんとしたものを創りたいのに、出てくるのはどうしようもない作品ばかりだ。


 いやいや別にそれが悪いわけじゃないのよ?


 たださ、さすがに真面目な大会で女優物はパッケージ詐欺だ!とかコスチューム物なのに最初から裸じゃ意味ねえだろとか、挙句の果てには女子高生物がいくら無理だからってお前は熟女カテゴリーだろうが!と叫ぶようなものを大声で叫びたくないのだ。


 ただ出来ないものはしょうがない。 時間が無いのだ。


 というわけで二作目は自身の過去と内面を掘り下げた作品となった。

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