二、事故

てんみょう(2180年)某日

病院で起きる。何があつたのか、とんと覚えてゐない。

医師が云ふには、軽い衝突事故に巻き込まれて、命の心配は無いけれども、どうも記憶装置の一部がシヨヲトして了つたらしい。これに因つて事故以前の記憶が丸ごと飛んで行つた。

なので私の所属は精神機科と脳機外科の双方となつてゐた。けれども命の心配は無いと云ふから、即日退院する気でゐた。ゐたら先ほどの医師が未だ入院だと告げた。ならば手術の日程を教へてくれまいかと尋ねたら、そのような腕の技師は此処には居りませんと云ふ。

そんな馬鹿な話があるか、では私は如何どうなるのだと語調したたかに詰めると、あおさびの星へ搬送されますと医師が答へた。

次に私が、出発は何時だねと問うたら、未だ目途が立つて居りません、よもやすると数年後などと云ふ事態にも成り兼ねますと云つたので、其は困る、一日でも早く回復したい、如何にか手は無いのかと尋ねた。

すると、では貴方様一人で行くと云ふのは如何でせう。貴方の自律機構はしつかりとしているやうに見えますし、幸ひ宇宙船ならば安物が一つ余つて居りますから、其をの形で贈与させて頂きますので、と其処まで医師が申した所で、相分かつた、其で手を打とうぢや無いかと賛同した。

其からの流れといへば実に素早いもので、宇宙船の鍵を手渡されてから直ぐに病院を後にした。

私は此を宇宙船の中で書いてゐる。記憶装置の障害の為に、記憶が二時間ほどしか持たなくなつた為である。

なので実際の出来事を全て、可能な限り細かに記すつもりである。

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狂言回し -ある男の手記- 山田 Ⓒ @yamada_maruc

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