浜松トライアングル

@Team_NE_CK

金曜日

プロローグ

 僕が経験したこの3日間の出来事は、この先訪れる人生の中でも最も奇妙だった。


 気付けば月曜の朝になってしまったが、まだ日曜までの充実した休日の満足感が心の中で踊り、今もまだ余韻が残っている。

 休み明けはいつもなら遅刻ギリギリで家を出ているのに、朝の支度も早々と終わり、これから会社に出勤をするところだが、通勤電車の中で金曜日から日曜日までのことを振り返らずにはいられない。


 体が少し重い。まだ疲れが少し残っているようだ。

 今日は昼休みに仮眠を取ることにしよう。


◇金曜日

 僕はこのかた20数年、只々平凡な人生を歩み続けていた。

 浜松で生まれ、浜松で育ち、そして今日も相も変わらず浜松にいる。


 今年の春から大学を留年になるかの瀬戸際で何とか卒業し、就職活動も無事クリアできたことで僕は晴れて社会人となった。

 小さいながらも地元では少し名の知れた会社で営業マンとして汗水垂らして働き、慣れない仕事や職場でなんとか現代社会を生き残ろうとしていた。


 これでも現代の若者として頑張っているほうだと自負している。


 今日は待ってましたとばかりの金曜日だ。明日から始まる2連休を前に、僕の心中では午後3時を過ぎたあたりから輝く休日の計画が練り始められていた。


 格好がいいことを言うつもりはないが最近のマイブームは神社巡りである。


 ある日の昼休みに、会社の近くにある小汚いラーメン屋でいつもの醤油ラーメン味玉乗せを啜りながら、ふとテレビに<神社の魅力!>と大きくテロップが流されていた地域密着型番組のコーナーに目を引かれ、天気のいい日は少し出てきたお腹との攻防戦のため、散歩の目的地を神社に決めていた。

 僕は神様をあまり信じる人では無いが、神社には何か神秘的な、それでいて心が落ち着く場所であると感じるようになり、境内の中を歩いているだけでまた一歩大人の階段を上った気になっていた。


 社内で今日の日報を作成しながらふと、壁に貼られている"お客様のために真心をこめて…"云々と大きな標語が書かれているポスターの上に鎮座しているだいぶ年季の入ったアナログ時計を見ると、午後4時30分を少し過ぎたところだった。

 僕は心の中で繰り広げられた様々な休日の過ごし方を、営業終わりの社内でパソコンを前にして日報作業もそっちのけで考えていた。


 いつも思うのだが、休日にやりたいことを考えても、実際に実現できるのは2割5分程度である。


 休みに入るととたんに何もしなくなるのだ。


 この現象にはいつも悩まされており、日曜の夜に後悔をするのがいつもの休日を感じるポイントである。


 午後5時30分、つい休日のことを考えていたら時間があっという間に過ぎたので急いで書類を作成し、今週の仕事も遂に終わった。

 なぜ仕事の時間はこんなにも長く感じるのだろうか。それもそうだろう。平日に毎日8時間も束縛されれば休み以外はずっと仕事だが、24時間で8時間だけなのに仕事だけで1日が終わる。


 そんなことを考えながら帰り支度をしていた。

 僕の会社は世間から見るとホワイト企業だと思っている。午後5時30分には新人の僕が帰る支度ができるのだから言わずとも分かるだろう。

 僕が会社を出るときには他の社員はほとんどいなかった。今日もホワイトである。


 帰りの電車の中で、明日目的地となる神社を検索した結果"邑勢おおせ神社"にすることにした。

 この神社は浜松市東区大島町にあり、自宅から歩いて20分ほどのところにあるため、ちょうどいい距離という理由が今回の決め手である。


 インターネットでこの神社の写真を見た時になかなか風情のある佇まいをしており、一目で勝手に納得をしていた。

 明日の目的地を決めたところで腹が鳴り夕飯を求めてきた。

 今日の晩ご飯はコンビニで買ってきたカレーだ。

 自炊もしないとな、と思ってはいる。

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