【29】GAME7―黒が潜む―

 自宅のテレビで、拓海の死のニュースをぼんやりと眺めている男がいた。アイスコーヒーを片手にソファにもたれ、くつろいでいる。けれどその瞳は決して穏やかとは言えず、剣呑けんのんな色が宿っていた。

 やっと動き出した彼女・・に、彼は安堵を覚えている。

「ターゲットじゃないのが残念だったけど、ターゲットはあと二人だ。彼女ならいける」

 そしてこう呟いた。

「彼らにに恐怖を。そして、俺もろとも殺してくれ……」



 事態は一変した。五回目のゲームでは死者が出ず、メンバーの変更はせずに前回のゲームを迎えたが、そこで犠牲者が出てしまった。

 これを受けて翔は、土曜の情報を待たずに武器の所持状況を考慮したメンバー分けをしたほうがいいのではないか、と思っていた。

 七回目のゲームを迎え、早速美月たちと話し合う。

 拓海の死の影響が大きいのか、美月も首を縦に振った。宗介も翔の意見に賛成のようだ。

「そうだね。鏡の動き具合といい、このタイミングでの新たな犠牲者といい、殺人鬼は確実に動いている。そして武器の扱いについても慣れている。別に話したとしても、マイナスにはならないよ」

 宗介の言葉を受けて、リスクが高いと昨日は反対していた芽衣も納得したようだ。そして見計らったかのようにモニターが起動した。

『ミナサンコンバンワ』

 モニターの男が喋るや否や、鷹雄が声を荒げた。

「満足か? 俺は拓海の仇を打つ! 俺自身はぜってえ生き残ってやる」

 鷹雄の様子は、モニターの男を含む全員が予想外だった。拓海と親しげではありつつも、彼にはどこか冷たさを感じていた。拓海を失った今、彼の口から「仇」という言葉が出るとは、思ってもみなかった。

 そんな様子の鷹雄を見たモニターの男は、さぞ気持ちよかっただろう。喜を帯びた口調で、頑張ってくださいね、とだけ言って話し合いの時間をスタートさせた。

 すかさず翔は、宗介とともに武器の説明を始めた。さらには、今回は武器の所持状況も含めてチーム分けをしようと提案した。反対する者はいなかった。

 武器の所持状況を確認すると、美月、宗介、俊一、夏子の四人以外は、全員何かしらの武器を持っていることが分かった。翔たちの説明を聞いて、やはり武器を持っていること自体に気づいていなかった人もいる。

 ここで、武器非所持者である美月たち四人が、武器を手に入れる必要があるか否かという話になった。殺人鬼は確実に武器を持っている。もし殺人鬼が直接ターゲットを狙いにくるのではなく、徐々に人数を減らしていって、「数の利」という殺人鬼にとっての敗因要素を消しにかかってくる可能性もある。

 そうなれば、狙われるのは武器を持っていない者。

 どうするのか、美月たちに視線が集中する中、俊一が意見を口にした。

「俺は、武器を取りに行かない方がいいと思ってます」

 俊一はその理由を、「殺人鬼が殺しやすい状況を作らないため」と説明した。一人になれば、殺人鬼が事を起こしやすい状況ができてしまう。鏡での分断を利用すれば、それをいとも簡単に作ることができてしまう。

 武器を取りに行かないのであれば、武器所持者の負担が大きくなってしまうが、武器所持者の反対はなかった。それよりも人数が減ることを恐れたのだ。美月たち四人も異論はない。

 行動するメンバー決めも終了し、あとはゲーム開始を待つのみとなった。武器を出せるのか試してみたものの、手元に現れることはなく、確認についてはお預けだ。

 今回、ターゲットである真由美、鷹雄と行動するのは、それぞれ茜と芽衣、宗介と勇真だ。男女の比率が悪いが、茜はどうしても鷹雄とは行動したくはないし、鷹雄は芽衣が殺人鬼でないと証明されていないため、信用できてない。

 その点真由美は、芽衣に武器を譲ってもらったことから、彼女に信頼を寄せているらしい。芽衣は殺人鬼であるピエロを殺した実績を買われ、推薦された。

 メンバーを確認した宗介が、全員に呼びかけた。

「よし、新しいメンバーも決まったし、新たな犠牲者を出さないよう頑張りましょう」



 龍之介は、前を黙々と歩く夏子の背中を見ながら、内心ため息をついた。正直なところ、彼女とは一緒に行動したくはなかったのだ。しかし、遡ること数分前。

 翔、龍之介、夏子、有人の四人は、モニターの下にある扉を通ってきた。四人では行動できないので、この先で二人ずつに分かれる予定だ。個室により分断されるという道は避ける。

 分かれ道までの間、どう別れるかという話になった。翔としては、殺人鬼である龍之介を監視したかったし、龍之介も自分の正体を知る彼が、一番行動しやすいと思った。

 けれども、有人が「公平性を期すため」ということで、グーパーで行動メンバーを決めたのだ。

 結果、龍之介は夏子と行動することになってしまった。

 夏子と二人になってからというもの、龍之介の中には常に緊張感が漂っている。

 五回目のゲームで、龍之介と美月は夏子と合流した。その時に下の名前しか名乗らなかった自分を、彼女は怪しんでいるだろうと推測していた。

「龍之介が殺人鬼である」と全員に知られてはいけない。

 知られたら、殺される確率が高い。美月のような人が多ければいいのだが、芽衣はピエロを殺している。龍之介が殺人鬼だと分かれば、彼女は彼を殺そうとするだろう。

 夏子は武器を持っていないから、よほどのことがない限り自分が殺されることはないだろう、と龍之介は思っていた。しかし今回のゲームを逃げ切られてしまえば、次回のゲームで周知されてしまう。

 ……殺すなら、今しかない。

 龍之介の目が、少しだけ鋭くなった時だった。

「ねえ」

 夏子が急に立ち止まった。そしてゆっくりと振り向き、龍之介と向き合った。

「あなた、殺人鬼でしょ?」

 龍之介が最も恐れていたことだった。

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