【24】貴族の罪・暴露
ついにこのゲームも六回目を迎えた。白い部屋に集められたゲーム参加者は皆、ひどく疲れている様子だった。自分の命が危険にさらされている状況が続いているのだから当然だ。
ゲーム参加者は、少しずつ「打つ手がない」と感じるようになっていた。というよりも、今の策が現段階での最善で、これ以上の案はないのでは、という気持ちがある。そしてその気持ちこそが、考え続けるということにブレーキをかけていた。
一方、殺人鬼から見ればそんなことはなかった。むしろ最初の混乱が落ち着いてきて、ゲームスタート直後は毎回二人以上で行動しているため、迷路の中の仕掛けがないと動くのが難しい。自身が殺人鬼だとバレても構わないのであれば問題ないのだが、残りの人数が、どうしても殺人鬼の行動を慎重にさせていた。
つまり、場はほとんど膠着状態ということだ。
この状況に関しては、モニターの男も想定外だった。もっと疑心暗鬼になって、一人で行動したいとか、無意味な殺し合いが起こるものだと思っていた。入手した武器の所持についても、案外気がつかないものだ。
彼は味気なさを感じていた。
翔が目を覚ますと、近くには美月と宗介がいた。翔が起き上がったことに気づいた宗介は、美月に説明していたことを翔にも話し始めた。武器の出し入れに関して気づいていない人もいるだろうから、周知しておいた方がいいだろう、と。
「それに関しては俺も考えてはいた。けど、そうすると武器をまだ手に入れていない人が、かなり不利になってしまうと思って……」
翔は美月を案じていた。彼女はまだ武器を入手していない。武器を手にした人は、身の安全を守るためにも、常に武器を出しておきたいと思うのが自然だ。そうなれば、もしもの時、彼女は自身を守るすべがない。
「ていうか、残りの殺人鬼のうち、少なくとも一人は――あ、殺人鬼があと二人生き残っている場合ね? 武器を手に入れていない可能性もあるけど、武器を出現させる方法に気づいていない場合だってあるのよ? リスク高くないかしら?」
話に割って入ってきたのは、芽衣だった。彼女は宗介の意見に反対のようだ。
「俺は……どちらかと言えば桐生君の意見に賛成かな。ただ、武器を持っていない人のことが気になる」
翔は美月に視線を向けた。
「翔、同い年なんだから呼び捨てでいいってば。ねえ、美月ちゃんはどう思う? 武器を持っていない立場の意見聞かせて」
翔の気持ちを察した宗介が、俺も武器持ってないんだけどね、と眉を下げ
ながら尋ねた。
「私は――」
『ミナサンコンバンワ』
美月の意見をモニターの男が遮ってしまった。四人は仕方なく、モニターの音声に耳を傾ける。
『前回は誰も死ななかったようですね。簡単すぎますか?』
まるで「簡単だろうからもう少しハードルを上げようか」とでも言いかねない口調に、喜一と真由美がすかさず反論した。
「いや、今のままで充分厳しいよ」
「そうよ、さらに難しくしたら私たちターゲットなんか簡単に殺されちゃって、殺人鬼はつまんないわよ!」
二人の様子をどう捉えたのか、モニターの男はルールの設定に関しては変更を加えなかった。
「ルール……あれ……?」
ふと、何かが翔の頭をよぎった。ボソッと呟かれた言葉は、一番近くにいた宗介には聞こえていたようだが、彼は特に気にしていない様子でモニターに向き直った。
何が翔の頭をよぎったのか。翔はその正体を考えてみたが、もやもやとした渦が思考に溶け込むだけだ。しかし何かが引っかかっていて、上手く切り替えられない。何かに違和感を持ったような気がするのだが――。
「――る、翔、聞いてる?」
「……え?」
翔が気がつくと、宗介をはじめ、美月と芽衣が心配そうに翔を見ていた。モニターはすでにブラックアウトしている。話し合いの時間はもう始まっているようだ。
「え、じゃないよ。さっきの話、美月ちゃんも賛成だってさ。だから芽衣さんを説得して、ちゃっちゃと話しちゃおうと思って」
「友原さん……賛成なの?」
翔は驚きのあまり目を見開いた。宗介は男なのでまだしも、彼女は女性だ。ただでさえ力に差があるのに、なぜ不利な状況を選ぶのか。
「あ、で、でも、話すのは今回じゃなくて、
美月は遠慮がちに切り出した。
「正直、殺し合いは嫌です。でも、誰がどんな武器を持っているのか……それを確認して損はないんじゃないかなって思うんです。そうすれば対策が取れます。私みたいに武器を持っていない人は、武器を持っている人と遭遇しちゃったらとにかく逃げる、とか……それに」
美月は付け加えた。
「これを機に、武器を持っていない人は、武器を探しに行く……っていうのも、ありなんじゃないでしょうか?」
美月の頭に残っているのは、ピエロと対面した時の記憶だ。あの時終了時間になっていなかったら、何も抵抗できないままピエロの刃の
不安に揺れる美月の瞳を見て、翔は動揺した。彼女は自ら、一人で行動することを志願している。彼女にこんなことを言わせてしまうなんて――翔は自分が情けなく、モニターの男も許せなかった。
「友原さん、ありがとう。言いづらいこと言わせてごめんね。
美月と翔の言う「あの話」を知らない宗介と芽衣は、徐々に独り言を言うように声が小さくなっていく翔を、眉をひそめて見ていた。翔は落ちていた視線を上げると、二人に事情を説明した。
「なるほど、そんなことしてたんだね、ふ・た・り・き・り・で」
宗介がニコニコと、美月と翔を交互に見た。それに合わせるかのように、芽衣も口元を緩める。
宗介と芽衣も、美月の案に賛成した。今回を含めてあと四回終われば、その次のゲームでは武器について話し合う。
「……そうしたら、特に話し合うこともないし……
宗介は笑っていた。しかしそれは口元だけで、目は笑っていない。どこを見つめていたのかは前髪で定かではなかったが、ただならぬ雰囲気に、美月たちは息を呑んだ。
宗介は真由美のもとへ歩み寄ると、真由美は何やら頷き、ゲーム参加者たちに呼びかけた。
「この人、人殺しと同じくらいに最低よ!!」
真由美が指をさし、睨みつけたのは、貴族服を着た男性――片岡勇真だった。彼の額には、いつの間にか汗がにじみ出ている。
「ちょっ、ちが、俺は――」
「こいつ、最初に殺された子のこと、見殺しにしたんだから」
真由美は、前回のゲームで勇真が告白したことを、すべてこの場の全員に伝えた。
サンタクロースの格好をした四条凛が殺されそうになっているところに居合わせたが、間に合わなかったと思い、その場を去ったこと。それを聞いたゲーム参加者の視線は鋭くなり、勇真を襲った。
「どんなやつか分かんなかったしよ……怖いだろ、普通。逃げて当然じゃないか! その後手に入れた武器も、その時は持ってなかったんだよお」
勇真は凛の話題になると、爪を噛んだり貧乏ゆすりをしたりと、過剰な反応を見せていた。その理由がこれだったのだ。
勇真を冷たい目で見ていた宗介は、ぐるっと全員の様子を見渡すと、一転穏やかな表情と口調で語りかけた。
「まあ、彼の事情もあるでしょう。けれど、そのサンタクロースの女の子が彼に救いを求めていたことも確かなはず。つまるところ、言いたいのは皆さん、『これからは助け合っていきましょうね』ってことです」
ね、と宗介に笑顔を向けられた勇真は、これでもかというくらいに首を縦に振った。
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