【18】GAME5―真実を惑わす事実―
男二人が、リビングでくつろいでいた。変死体の速報を翔と同じように見ている。食事を終えティータイムの時間を、彼らは優雅に過ごしていた。
「ここまでで六人か。しかも今回は、ターゲットが一人死んだ。これは焦るだろうね」
そう言った男が、心底愉快そうに口の端を吊り上げると、それを見たもう一人の男も、控えめに笑った。
「そうですね。間違いなく彼らは動揺している。さらに、この後のゲームで
嘘は言わない。それではゲームは面白くない。ただ、その奥に隠されている真実に気づくかどうか――それこそが重要だ。
「姉さんの仇です。地獄に落ちればいい……」
二人は真っ直ぐに互いの目を見た。
「当然の報いだ」
そして彼は小さく呟いた。
「待っていてね、みゆき……」
ついに五度目のゲームが幕を上げようとしていた。さすがに六人も減ると、「死」というものが現実味を帯びて迫ってくるような感覚をゲーム参加者たちに与えた。加えて、ターゲットが一人いないという大打撃が、彼らを動揺させている。
翔はあらかじめ美月に電話をして、真由美に探りを入れるよう伝えてあった。念のために声をかけておこうと思い、混乱の中美月を見つけると、彼女はすでに宗介、真由美と話をしていた。
「あ、青葉さん!」
翔に気づいた美月が、明るい声で呼んだ。たったそれだけのことに、翔は何故か安心感を覚えた。
三人の話題はもっぱら、今回モニターの男から知らされる「殺人鬼でない者」についてらしい。
『皆さんこんばんは。かなり人数が減ったようですね』
そんなことは言われなくても分かっている。彼らが欲しいのは、そんな言葉ではない。美月の隣から、真由美の声が突き刺さった。
「そんなのどうでもいいから、早く『殺人鬼じゃない人』ってのを教えなさいよ!」
真由美からしたら、ターゲットが減るということは、殺人鬼の殺意の対象が自分に集まりやすくなることと同じだ。真由美は間違いなく追い詰められている。それが美月には、痛いほど伝わってきた。
『まあ、そう焦らずに。ちゃんと教えますから。殺人鬼でない者を、今から四名挙げます。それは――』
モニターの男は衣装名を挙げた。そして殺人鬼でないと証明されたのは、学ラン――宗介、執事――拓海、バスケットボール選手――茜、そして貴族の男性だ。
『さらに、今回からルールを追加します』
「ルールの……追加?」
最初に反応した翔をはじめ、参加者たちはどよめいた。モニターの男曰く、このままではつまらないだろう、とのことだった。
『人数も少なくなってきたことですしね、四人以上での行動を禁じます。万が一合流してしまった場合、素早く別れてください。それでは話し合いをどうぞ』
一方的にルールを告げ、モニターがブラックアウトした。
翔は、予想外の状況に唖然としてしまった。最低でも美月か翔のどちらか――美月が殺人鬼でないということは翔の主観に過ぎないが――の無実が証明されればと思っていた。しかし現実はそう甘くなく、それどころか行動人数を制限されてしまった。
美月と翔がいずれも殺人鬼でないと証明されなかったことにより、ターゲットの二人から情報を引き出すのが難しくなってしまった。聞くなら、この話し合いの時間しかない。
殺人鬼でない者の判明とルールの追加に戸惑う人が大半を占める中、したり顔の男が二人いた――ターゲットである白軍服の鷹雄と、執事服の男性、拓海だ。彼らはすぐさま、自分たちは二人で行動すると言った。
これに反対したのは俊一だ。
「待ってください。せめて、殺人鬼じゃないと証明された人を、もう一人加えてもらえませんか」
「別にその必要はねえだろ」
白軍服の男性が、覚めた表情で俊一を見下した。
俊一はひるむことなく、その必要性を説明した。
「俺の考えはこうです。まず第一に、殺人鬼ではない人と、殺人鬼の可能性がある人を分けます。しかしこれでは、いずれも行動可能な人数を超えてしまう。あなたたちにもう一人、殺人鬼じゃない人を加えてもらえれば、もう一人のターゲットである下川さんも、殺人鬼じゃない人二人を連れて行動できます」
さらに俊一は、殺人鬼という可能性を
拓海は鷹雄の顔色を窺った。自然と彼に注目が集まる。
鷹雄は険しい表情を崩さないまま少し黙っていたが、やがて賛同してくれた。
「いいだろう、ただし……絶対に足は引っ張ってくれるなよ」
彼の威圧に、ターゲットではないと証明された拓海以外の三人は顔を見合わせた。
対して殺人鬼の疑いがかかったままの八人は、男女のバランスを取りながら、美月・翔・龍之介、芽衣・喜一・夏子、俊一・消防士の男性という三グループに分かれることとなった。
「え、こうしたら二人で行動する人が出ちゃうじゃない。そいつら二人が殺人鬼だったら、どうするのよ?」
真由美が、俊一と消防士の男性を指差した。茜が鷹雄と拓海の方へ移動していることから、真由美は宗介、貴族服の男性の三人で行動するようだ。
「ルールで決められたんです! 仕方ないでしょう」
真由美に指を差された消防士の男性は、それに僕殺人鬼じゃありませんし、と付け加えた。
グループを決めている間に、ゲーム開始まで四分を切っていた。話がひと段落したこのタイミングを見計らって、翔は真由美と白軍服の男性を中心に、最近のトラブルについての話を滑り込ませた。
「は? つまり、俺らが誰かに恨まれてるからターゲットになったって言いたいわけ?」
翔の質問を受けた鷹雄は、嫌悪感を表に出した。
「ここにいる時点で、みんな何かしらの恨みを買ってしまっているとは思うんです。けど、ターゲットに指定されたからには、それなりの理由があるかと」
翔は、あくまでも彼らだけが悪いわけではないことを強調し、その上で改めて情報を求めた。短い時間の中、翔は必死に投げかけた。口を開いた鷹雄は、短く息を吐いた。
「正直……心当たりがありすぎる」
翔の質問に食ってかかった割には、彼はあっさりと認めた。
「自分で言うのもあれだが、まあ、結構な数の女を泣かしてる。喧嘩だって、昔ほどじゃねえけど、まあするな」
翔は、また機嫌を損ねることを覚悟して、詳しく話を聞いた。美月はその様子を、彼はノートにメモするつもりなのだろうと推察した。
鷹雄は、言うほどでもないが、と出来事を列挙していった。
お互いの彼女とわざと寝た。機嫌の悪かった時に学生時代の同級生と再会し、二対五――拓海とともに五人を相手にしたらしい――にも関わらず相手をボコボコにした。女性を公園でレイプした。客――バーテンダーをしているらしい――を酔わせて金を抜き取った。男子学生を恐喝した……。
これがここ数年の主なトラブルだった。「言うほどでもない」というのは彼の主観であって、昔はもっと色々やっていたらしい。
鷹雄の話が濃く、度々翔が質問をしてしまったせいで、残りの時間が一分を切ってしまった。真由美にも聞いてみると、ストーカー被害に遭って、その男を警察に突き出したとか、内定先のことをSNSで呟いたら内定を取り消されたことを告白した。
ゲーム開始のブザーに話を遮られる。
真由美は、そういうことだから、と宗介、貴族の男性と一緒に、モニター右横の扉へと消えた。
他のグループも扉へと向かい、美月グループと俊一グループは、モニター下の扉を通り、その先にある四つの分かれ道で別行動に移ろうということになった。
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