第26話 生徒会長の一存 その3
「アタシ、生徒会室に行く!」
全員の沈黙を破り、決意を込めた表情でシータが立ち上がった。
「シータ?!」
「だって、私たちのためにエリィが生徒会にひどいことされているかもしれないんでしょ?校長先生の使い魔が消滅させられたってことはそういうことじゃないの?」
悲痛な叫びをあげるシータ。
しかし、他の者はそれを聞いても、うなだれるままだった。
「皆、どうして立ち上がらないの?……エリィのこと、好きになったから、この同好会に入ったんじゃないの?」
痛ましいシータ、そして、他のメンバーを見かねたのか、年長者のイプシロンが口を開いた。
「お前、わかっているのか?」
「何をですか、先輩?」
「生徒会室に行くということは、生徒会に逆らうということだろう」
「それは……そうですけど」
「下手をすれば退学だぞ」
「……で、でも、私……」
「まあ、いい、お前はそれで気が済むのかもしれない。だがな、その結果を、エリザベートの奴が喜ぶとは、俺は思えないんだ」
「……先輩ずるいですよ、その言い方……」
確かに、イプシロンの言うことはもっともだ。
そんなことにでもなれば、エリザベートは、きっと、自分がそうさせてしまったのだと激しく後悔するタイプだ。
初めて会ってからこれまでのことを思い出してシータにはそう思えた。初めて会った時……。
「そういえば私、一緒に水泳するって約束……まだ一度も果たしてない……ごめんなさい、イプシロン先輩。やっぱり私行きます」
「待てよシータ。俺もついてくぜ」
ガンマが立ち上がった。そして、シータに微笑みかける。
「ガンマ……」
「アイツにまだ俺のスペシャリテを食わせてやってないしな」
「シータさん、僕もいきますよ」
「デルタ!」
「
「私のことも忘れないでね!」
「ミュー……」
「いや、私の方が忘れてたか……魔導帰宅部としてこれからアイツとガンガンやらなきゃいけないってのにね」
「そうね、私がいかなきゃ始まらないわ」
「アルファ!」
「友達……だからね」
イプシロンは、下級生たちの熱血ぶりをしばらく眺めていたが、アルファに意味ありげな視線を向けられたことで、覚悟を決めたようだった。
「あーもう、お前ら仕方ねえな、俺もついてってやるよ」
「先輩!?」
「一応言い訳しとくがな、さっきのはお前らを試したんだよ。半端な覚悟じゃ、こんなことできないからな!」
「ありがとう、ございます。それじゃあ、いきましょう」
「魔導帰宅部ーファイッ!」
「オーッ!……ってミュー、アタシだけにやらせないでよ。つられちゃったじゃない……」
「こら、シータ、ミュー、遊んでるんじゃない!」
「ご、ごめんなさい」
「遊んでませーん」
なんだかんだ言いながらも、アルファを伴いながら一番最初に同好会室の扉に手を掛けていたのは、イプシロンだった。
そして、彼らは現在、生徒会室の扉の前にいた。
「いざ、ここまで来たけど、流石にドキドキするね」
「俺、シータと一緒なら、怖くないぜ」
「ガンマ君、僕それ女の子の台詞だと思うんだけど……」
「さーて誰が開ける?ここは公平にじゃんけん?」
「いいわねえ、ミュー、天の神に采配を委ねるということね。ありだわ、物語っぽい」
「……まあ、俺はアルファがいいならいいぞ……うん」
ここまで来てもまとまりのない6人だった。
いや、とりあえずはじゃんけんで開ける者を決めることにしたのだから、意見のまとまりはあるか。
「いいー、みんなー」
「おーっ、シータいつでもいけるぜ!」
「最初はグーで、その後が本番だからね、間違えないでー」
「このアルファの勝利に微塵も狂いはないよっ」
「アルファまで……何だ何だこのノリは、俺だけ学年違うからか?ついていけてねえぞ」
「大丈夫です、イプシロン先輩、このデルタも似たような者です……」
「シータしきるねえ。あーでもこれ、国によってルール違ったりするらしいよ」
「そうなの?ミュー」
「かけごえ違ったり、井戸が追加で4種類だったり、さらに追加で100種類以上の手があるとか、ないとか」
「それ、じゃんけんなの……?」
「何だか楽しそうじゃのう、こんなところで何をしとるのじゃ」
「何をって、じゃんけんよじゃんけん!」
「何か皆で決めることでもあるのか?珍しいのう」
「だってエリィが……」
「ワシがどうかしたのかの?」
全員の目が点になる。
じゃんけん談義に夢中になっているうちに、いつのまにか扉が開いており、エリザベートがすぐそこにいたのだ!
「エリィ……エリィ……よかったー」
「おおい、どうしたのじゃあああ」
全力で抱きしめるシータ。
エリザベートの方はというと、いつもどおり、持ち上げられているため、地につかない足をパタパタさせることしかできない。
「無事だったんだ……無事だったんだ」
「む、むう?シータおぬし泣いておるのか?」
「だって……生徒会室でひどいことされてると思って……」
「ああ、そのことか……」
「えっ?」
「わかってもらったぞ。もちろん力づくだがな」
遠目に、扉の向こうを見ると、桃色の髪の小柄な女子が泡をふいている様子がうかがえた。「魔王様、もうしません。魔王様……」としきりに何かつぶやいている。あれが生徒会長だろうか?
「なんだ、いつもどおりのエリィだったのね。もー心配したんだから」
「そうですよ、私も使い魔が消されて、とても心配しておりました」
脇からこの時とばかりに2人の間に割り込んで、校長が訴える。
「あの使い魔はおぬしじゃったか、
「あ~~~~~」
「しかし、そうか、そういうことか……これは、また後で折檻じゃの」
「ひぃいいい」
もはや威厳もクソもない状況の校長だった。
怯える彼にニヤリとすると、エリザベートはキョロキョロと周りの面子を眺める。
「何じゃ全員おったのか。丁度良い。おぬしら全員今日からワシの配下じゃ。キビキビ働いてもらうぞっ!」
手にもつ紙を満足気に広げる。
そこには、魔導同好会として、7人の名前が書いてあった。
「楽しみだね、エリィ」
「7人分作らんといかんのか、これは大変だな……」
「僕にスパイスだけじゃなく食材も任せてよ」
「魔導帰宅部……やっぱり語呂悪いかな?」
「創作、創作」
「部室の空間を物理的に広げる必要があるな……」
全員の気持ちは1つであったが、個性の方向は別々。
やっぱりまとまらないのは変わらない……でも。
「えーい、わかったわかった、とりあえず同好会室に戻るぞっ!」
エリザベートは今日も、勇者達と学園生活を楽しみます。
元魔王、ううん、仲間として。
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