隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている!

英知ケイ

第1話 闇の世界の中心で辞意を叫ぶ!

 その場所は、地底の奥底、この世の果てにあった。

 とても暗く、人間では何もその目にすることの無いであろう闇。

 その中で、大きな2つの影が蠢いていた。


「では、ワシは行くとする、ゴルドザークよ、常世を統べる魔王としての役目、そなたに全て託す」

「身に余る光栄、このゴルドザーク、謹んで励む所存で御座います」

「うむ、しかし楽しみじゃわい。これまでは、うざったい勇者どもに全滅ブレスや異次元転送をするばかりの日々じゃったからのう。封印されたときは逆に休憩できて喜んでおった。しかしまあ、大体数百年もせんうちに、封印の力が弱まったり、心無い臣下に復活させられたりで起きるしかなくてだな、また毎日ブレスに魔法じゃ!もう飽き飽きした!!光あれば闇設定で、きっちり消滅させてもらえんと、魔王は寿命も無いしの、正直どんだけブラックな職業なんじゃ魔王は!と思わずにはおられんかった」

「あのう……私めがこれから励みますので、今少し良いところなどは……」


 一瞬、一方の影の動きが止まった。


「……すまぬすまぬ。さっき言ったことは忘れてくれ。勇者を全滅させるのは楽しくはあるぞ、うむ。先ほど申したように、倒されて封印されれば休めるしの。逆に考えればこのように良いことばかりじゃ」

「ものは言いようでございますね」

「ウオッホン、そんなワシも、これで翼ならぬ羽を休められるというもの。わざわざワシのためにその場所まで探してくれたおぬしに、もうやれる褒美がないのが残念じゃ」

「この魔王の座で、十分に報われております」

「そうか、魔王としての立場、存分に楽しむがよいぞ」

「はっ」

「では、さらばじゃ」


 1つの影がたゆたった。そして、あっという間に消えた。


「早いな。得意の転移魔法か……これで俺が魔王、ハッハッハッハッ、ヒィッヒッヒッヒッ」


 そんな高笑いをする残った影の傍らに、もうひとつ別の小さな影があらわれた。


「おめでとうございます、ゴルドザーク様」

「シルバか、これからお前にも俺のために存分に働いてもらうぞ」

「もちろんでございます」

「して、あの間抜けな元魔王を消滅させる計画の方は」

「問題ございません。ヤツも行き先を知れば、観念するしかないでありましょう。あの地では、その力も発揮できぬでしょうし。こちらに転移して戻ることはもはや不可能。蟻地獄に入ってしまった蟻に過ぎませぬ」

「そうかそうか、あやつが魔王であったときには、HP、MP、アイテムが十分な状態の勇者どもの前に中ボスとしてつきだされて、散々な目にあったからな。ブレスで一掃できるように、可能な限りHPとMPを削っておけとか、初見殺しなチートキャラがいるとまずいから、自分を最終ボスに見せかけて技を全部使わせろとか……」


 暗闇の中でも、かの新魔王が肩を震わせているのがわかった。


「苦労なさったのですな……」

「あの恨みは決して忘れぬ、……ゆえにヤツには転移先の世界で、屈辱を存分に味わった上で完全に消滅してもらう」

「手はずは整えております。まあ、我々は何もせぬでもよいですので、高見の見物のみとなりましょうが」

「この、この世の最果てまで見通す鏡でな、クックック」

「ヤツも自分が好んで使っていたアイテムで、まさか自分の醜態を見られることになるとは思わなかったでしょうな」

「ヤツが絶望して消滅するその時が来るのが、今から楽しみで仕方ないぞ、クーックックックッ、ヒャーヒャッヒャッヒャッ……」


 新魔王の高笑いは、いつまでも、その永久の暗闇に響いていた。

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